表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/93

大いなる女装(五)

 禿田はげた高丸たかまる氏は純文学の大家である。生憎、彼の書いたものを私は読んだことがないが──。


 ちょうどよかったので聞いてみた。

「先生! 教えてくれませんか? 純文学とは何なのでしょう?」


「面倒臭いな、何だね、キミ、いきなり」


「私は純文学の求道者です。今まで私はさまざまな人からその答えを聞いてきました。しかしプロの方から聞いたことはなかった。是非、私に教えてくれませんか? 純文学とは何なのかを」


「権威だよ、権威」

 純文学の大家はあっさりと言った。

「権威を得ればもてはやされる。それが純文学だ。大衆小説よりも高尚なぶん、特別にな。権威を得るためには賞を獲って泊をつける。それが純文学だ。どうだね、踊子くん。キミも権威にありつきたくはないか?」


「ありつきたいですわ、先生」

 トーコが色っぽい目をしてみせた。


「それならこれから私とブンガク行為をしよう! ホテルの部屋はもうとってある! すぐ行こう! それでキミの最終選考への道は約束される!」


 トーコが私のほうを見た。

 私は首を横に振った。

 しかし彼女は意を決したように、それでいて柔らかく笑うと、その唇に笑みを浮かべ、動かした。


「任せておいてね」──と。




 夜の街に紛れて消えて行く二人の背中を私は見送った。

 初老作家の腕に背中を抱かれ、トーコの後ろ姿がネオンに溶け、闇の中へ消えていく。


 私は低い夜空を見上げた。

 ケバケバしい紫色の看板にピンク色の文字が滲んで見えた。


 高いところに堂々と掲げられた、『ホテル真実』の文字が、滲んで見えた。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回はなんだろう?と考えたが分からず、タイトル頼りにググりました。 筒井康隆か。守備範囲というか、文学知識ハンパ無いですね!
[一言] 「悔しさが男をつくる、惨めさが男をつくる、悲しさが男をつくる。そして強大な敵こそが、真におまえを偉大な男にしてくれる」 マンフレート・フォン・リヒトホーフェン 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ