大いなる女装(三)
『珍藝賞』の第一次選考の発表があった。
結果から言うと、私の名前はどこにもなかった。
あれほどの自信作であったのに!
トーコもお墨付きをくれたのに!
「ごめ〜ん……。あたしの添えたメッセージがよくなかったかも」
トーコがいきなり謝ってきた。
「考えたら一次選考は下読みのひとがやるのよね。……そこであんな写真とメッセージが添えられてたら、それだけで『ふざけるな』って落とされちゃうかも。だって下読みのひとには何のご褒美もないもんね」
やはり汚い真似などせず、真面目に、ふつうに立ち回ったほうがよかったのか……。
過去にこの賞からデビューして有名になった『たわや理沙』や『うさぎ凛』も、きっとふつうに応募し、ふつうに選ばれたのだ。後にデビューしてから顔見せしたら美少女であったのだが、そんな武器は使わずに、実力のみで勝負したのだ。
「次はふつうに応募するよ」
私が言うと、トーコが恐縮したように頭を垂れた。そして心配そうに、言う。
「あなたなら実力で受賞できるとわたしは思うわ。……でも、あの作品に全力を出しきってしまったんでしょう? 一年後の次の賞に向かう力は残ってる?」
正直に言うと自信がなかった。
受賞していればその勢いに乗って次作を書くことができていたかもしれない。しかし早々に落選してしまったことで、私の気力は萎みきってしまっていた。
電話が鳴った。
トーコのスマホだった。表示された番号に心当たりがないのか、トーコは少し首を傾げてから、通話ボタンを押した。
「はい……。えっ? あ、そうです。北村踊子はわたしです」
トーコの名字は『雪野』である。『北村踊子』は今回の新人文学賞に応募するために設定した、私のペンネームであった。
「えっ……? えっ!? ほんとうですか!? はい! はい! ありがとうございます!」
ペコペコと何度も誰だかわからない相手に頭を下げ、電話を切るなりトーコが言った。
「選考委員の『禿田高丸先生からの電話だった! 先生のお力で特別に最終選考まで通してくれるって!」