三十八、大いなる女装
機は熟した。
私は今なら純文学が書ける!
世間を驚かせ、文學界に新たな息吹を吹き込むような問題作を書いてやる!
ヒカリさんの仇を取ってやる!
貧乏ゆえにパソコンなど持っていないので、スマホに向かい、応募すべき純文学の賞を調べた。
困った。
どうやらスマホで応募できる純文学の新人賞は、有名どころにはないようだ。
パソコンは持ってないし、原稿用紙と万年筆を買い揃えるほどの金すらない。
『買ってあげるよ。僕がキミをバックアップすると言ったろう?』
電話の向こうの諏訪の顔が私の脳裡で200倍に美化され、後光がさして見えた。
『どっちでもいいぜ? 原稿用紙とパソコン、どっちがいい?』
それならもちろんと、ノートパソコンを買ってもらうことにした。執筆以外には使わないので安いのでいいと言ったら、12万円ぐらいのを買ってくれることになった。
応募先を『ばるす文学賞』か『珍藝賞』かでなんとなく迷い、若い女の子がよく受賞している『珍藝賞』のほうに決めた。
私には策略があったのである。
性別を偽って、女流作家のフリをして応募することにしたのだ。
原稿にトーコのばっちりメイクをした写真を添えて送るつもりだ。
加工ありとはいえ、やはりルックスのいい若い女の子が書いたもののほうが、喜ばれると思ったのだ。