誰が為に純文学はある(二)
先輩の彼女でありながら、純文学を読んだこともないという筒竹さんに、私は驚いて問いかけた。
「えっ? だって、純文学は真実を描くのですよ? 嘘と幻想で覆われる世界を爽やかに破壊してくれるものだ! なぜ、あなたは先輩の彼女でありながら、そんな純文学を読まないというのです?」
「言ったじゃない。漫画のほうが面白いからよ」
その答えを聞くと、私は居ても立ってもいられなくなって、駆け出した。そろそろ先輩が部室で私を待っている頃だった。
「来たか、北村」
先輩は待っていてくれた。私ごときと純文学談義をすることを楽しみにしてくれているのだ。
窓から射し込む夕陽を全身に浴びて、今日も洛美原先輩は美しかった。この世の美を一点に集めるように、ボクサーパンツ一丁の格好で、私の前に堂々と立っていた。
筒竹マネージャーにはこんな美しさは感じない。女性の美しさなど、まやかしだ。それは性的興味が賢者モードに入ってしまえば消え失せる、嘘か幻のようなものだと三島由紀夫著『女神』に書いてあったのを読んだことがある。それが真実なのかどうかは知らないが。
「先輩!」
私は早速、問うた。
「先輩の彼女の筒竹さんは純文学を読まないと言っていました! 良いのですか? そんな女を彼女にしておいて?」
先輩は答えた。
「付き合ってない」