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三十一、バカの名前
私は暗い森の中に建つ、巨大な修道院の外周を歩き続けている。
その意味はわからない。壁には時々何かの記号のようなものが記してあるが、その意味もわからない。
ただ頭の中で、ある種の難解な数式をずっと繰り返していた。1+1=2、9✕9=81……。
修道士のショーン・コネリーが横を並んで歩いていた。彼が呟く。
「修道院の中で殺人事件が起きたのだ。犯人はとんでもないバカだということがわかっている。バカの名前は……うーん……ベルと、A子さん……」
どうでもよかった。
殺人事件が何だというのだ。人の命は軽い。
しかし洛美原先輩の命だけは、私にとってはこの地球よりも重かったのだ。
黒い森を巡る、悲しみの円環運動から、私は抜け出せる時が来るのだろうか?