表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/93

先輩の耐えられない軽さ(二)

 はじめはからかわれているのかと思った。


 しかし、本当だった。洛美原先輩は、私の父が母と結婚していながらソープランド嬢との間に作った、私の腹違いの兄だった。



「兄さん……」

 私は声を震わせ、先輩の強いまなざしに潤んだ目で聞いた。

「兄さんと……呼んでも……?」


「もちろんだ、直樹!」


 先輩が腕をおおきく広げた。私はその中に飛び込んでいくと、涙でぐしょぐしょになった顔を擦りつけた。


「兄さん! 兄さーんっ!」

 ひとしきり甘えてから、そのことに気づいた。

「あっ……! ごめんなさい、綺麗な白いタキシードを汚してしまった!」


「構わないさ」

 先輩は太陽のように笑った。

「おまえになら、純白をけがされても惜しくはない」


「北村直樹くん」

 キャサリンが横から微笑みかけてきた。

「これからはあたしのこと『姉さん』って呼ぶのよ? いじめてあげる」


「はい!」

 正直嬉しかった。

「姉さん!」

 またあの柔らかくて巨大なお尻にのしかかられたかった。


 家族が増えた。

 あの辛気臭い四人が消し飛ぶほどの魅力に溢れる家族が二人もできた。


 人生最良の日だと思った。




「それじゃ、新婚旅行にいってくるぜ!」


 先輩とキャサリンはチェコのプラハへと旅立った。ドイツ製の白いオープンカーの後ろに紐をたくさん結びつけ、そこに繋いだ無数の空き缶をガラガラいわせながら。古いヨーロッパ映画の一場面を見ているようだった。


 花嫁衣裳姿のキャサリンが手に白い花束を持ち、はしゃいだ笑顔で私に手を振った。

 胸元の汚れた白いタキシード姿の先輩が、ハンドルを握りながら振り返り、私に向かって笑顔でサムズアップをした。


 そのすぐ後、二人が崖から転落して死んだことをアメフト部の友達から知らされた。先輩がいつまでも後ろを見ながら運転していたため、前方不注意でタイヤがガードレールのないところで道を踏み外したようだった。



 人の命の軽さを知った。


 戦争で流れ弾に当たって死ぬ人のように、先輩はあまりにあっさりと、私の人生からその姿を消してしまった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 嗚呼!? ……命鴻毛より軽し [気になる点] ─然りとては 愛し捨つるは対酬承接  帰せず卒然を賭すは詢分  となん [一言] さよならだけが(ry 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ