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三十、先輩の耐えられない軽さ

 諏訪は果たしてヒカリさんと結婚することになるのか、ヒカリさんの詩集は果たしてベストセラーになるのか──


 それを待つより先に、その知らせが私の元に届けられた。



 『俺たち、結婚するぜ!』



 キャサリンとイチャイチャする写真とともにそう書かれたハガキが届き、洛美原らくびはら先輩が黒のマジックペンで書いたその力強い文字を私は指でなぞった。


「本当に結婚するのかよ……」


 複雑な気持ちだった。私は断じてホモではない。しかし嫉妬にも似た感情が私の胸をモヤモヤと駆け巡り、先輩の結婚式なんて出席してたまるか、ボイコットしてやるぞ、と思いながらも、結局は出席することになったのは、結婚披露宴の食事はビュッフェ形式で、いくらでも飲み食いしてもいいと聞いたからだった。





「よく来てくれたな、直樹!」


 先輩の白いタキシード姿が眩しかった。

 キャサリンはさらに美しく着飾っていて、ハーフ美女なこともありウェディングドレスのモデルのようだったが、それでも私は洛美原先輩の美しさのほうに目が釘づけになってしまった。


「直樹……。いいか? 結婚と死は人生でもっとも重い出来事なんだ。純文学でも好んで描かれるテーマだ」


 洛美原先輩のそのことばを聞きながら、私は心の中で先輩を詰っていた。『めっちゃ軽いノリで婚約したくせに』と。


「直樹……」

 洛美原先輩はいつものように教え諭す口調で私に言った。

「結婚式などというものは単なる華やかなるファッションショーだ。これから俺の結婚生活が始まる。俺は家族のために働き、キャサリンと時には血まみれのような喧嘩をしながら、幸せな笑いを浮かべ、愛人を作って、7人ぐらい作って、うまくやっていくつもりだ。その物語をいつかおまえに語って聞かせてやろう」


 私は思わず聞いた。


 前から先輩に対して思っていたことを。


「なぜ……、先輩は僕のことをそんなに気にかけてくれるのですか? 先輩が純文学のことを語るのは僕の前だけだ。……先輩は、僕のことを、先輩の何だと思ってくれているのですか? ただのアメフト部の後輩以上の何かに思われているような気がします」


「今まで黙っていたが……」

 すると先輩は教えてくれた。

「おまえは俺の生き別れの弟なんだ」





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[一言] 血痕は尽誠の破瓜塲
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