二十七、若くない詩人の焦燥
なぜか私まで部屋の中に通され、三人でちゃぶ台を囲んだ。
ヒカリさんはよほどフィナンシェが好きなのか、紅茶と大量のフィナンシェがちゃぶ台の上に置かれた。
「僕はね、彼女に詩集を出版することを勧めているんだ。僕の親父の力で絶対に有名にしてみせる」
そういえばコイツの親は金持ちだった。
「彼女は天才だ。きっと日本中にその名を轟かすことだろう」
しかしヒカリさんは迷惑そうに俯いて、諏訪の顔をみようともしない。
諏訪が聞いた。
「なぜ、こんないい話を拒むのですか、ヒカリさん?」
「私なんて……そんな……」
ヒカリさんは蚊の鳴くような声でようやく喋りはじめた。
「……大体、現代詩なんて、売れるわけがないもの。無駄なことはやめて、諏訪くん」
「いいや! あなたの才能はこの僕が保証する!」
諏訪は口調に熱をこめた。
「最果タヒのようにアレキサンドロスやたくさんの有名アーティストから作詞依頼が絶対に殺到する! 僕を信じて!」
「それに……ね、わたし、焦っているのよ」
「何をです?」
「わたし……、もう、27歳よ? 19やハタチならそういう冒険もしてみたいけど……もう、自分の将来のことを考えないと……。いつまでも派遣のバイトじゃいられないし……」
「結婚のことですね?」
諏訪が嬉しそうにサメのような歯を剥き出しにした。
「僕があなたを貰います! 結婚してください、ヒカリさん!」
目の前でプロポーズが始まってしまった。
私はフィナンシェを黙々といただきながら、帰りたくて仕方がなかった。