二十四、青い徒花
私は自分がどれだけ彼女のことを好きだったのかを、思い知らされた。
トーコは私にとってただの許嫁であり、セフレであり親友であると知った。私は本当に筒竹さんを──彼女だけを愛していたのだ。失ってから初めてそんなことに気づいた。どんな純文学よりもこの失恋は真実だと思えた。
そして彼女の言う通りだと痛感した。
純文学なんて……真実なんて、何の役にも立たないじゃないか。むしろそんなものどうでもいいんじゃないか? 人として、要領よく生きたほうが幸せじゃないか? 楽しいんじゃないか? 彼女の言う通り、真実を見る目を養ったところで、そんなものは就職活動において何の役にも立たないんじゃないか? 実際、この小説だって、大衆の嫌がる真実を描き過ぎたためか、ブクマがどんどん剥がれている。
しかし私の傷心を慰めてくれる力は、純文学は有していた。私は涙と洟水をだばだばと流しながら、ノヴァーリスの『青い花』を読み、その幻想的な文章に癒された。ドイツ語はわからないので訳文とはいえ。
夢で見た青い花を探して青春を旅する主人公を憧れのように思い描き、羨望のまなざしでその行方を見つめながら、文字を追った。
文字を追いながら、涙は止まらなかった。
「都々〜……。大好きだったよぉ〜。君が僕にとっての青い花だった」
木製のベンチが私の体液でグショグショになっていく。
ふと気がつくと、私がノヴァーリスを読む公園の東屋のベンチの上に、もう一人誰かいる。なぜ気がつかなかったのだろう、すぐ隣だ。
やたらと高い背を猫のように丸めて、いつもは血走っているそのおおきな目を閉じて、私と並んでその男はいつの間にか座っていた。いつもは笑わせているサメのような歯の並んだ口を、だらんと力なく、熱で溶けたマシュマロのようにして──
「諏訪くん」
彼の名を呼ぶと、ようやく力なく笑い、諏訪は私のほうを見た。
「やあ、北村氏。君も恋の悩みかい?」