都々、頭をよくしてあげよう(四)
「ごめんね! 映画の公開時期、もう終わっちゃってた!」
待ち合わせのシネコンに行くなり、筒竹さんにそう言われた。
5月で終わっていたらしい。ちなみに今はもう7月だ。
「あたしってバカなの。犬以下なの。ごめんね!」
そう言ってペコペコ謝る彼女はほんとうにバカで、それゆえにかわいく思えた。
「じゃあ、当初の予定通り、筒竹さんの部屋に行って、一緒に呪術廻戦のコミックを読もう」
俺が言うと、なぜか慌てたように彼女は笑い、俺に提案してきた。
「どうせここ来たんだから、何か観ていこうよ。ね? 北村くんの観たい映画、何かない?」
上映中のポスターを右から左に眺めた。
ひとつのポスターの上で私の目が止まった。
── 芸術映画の最高傑作!『フェリーニの8 1/2』、リバイバル上映中! これは動く純文学だ! ──
これしかないと思った。
素晴らしい映画だと思った。
冒頭から人間が高いところから落下するイメージ映像で始まり、ストーリーは何が何だかさっぱりわからないほどに意味深長であった。
人間がとにかくたくさん出てきて賑やかで、何が起こっているのかさっぱり理解できなかった。なるほどこれが動く純文学というやつか。真実とは意味深長なものなのだ。
隣を見ると筒竹さんがいびきをかいてスヤスヤと眠っている。
かわいそうに。やはりバカだから、芸術がわからないのだろう。
その寝顔は小動物のように、とてもかわいかった。
「ごめんね、途中で寝ちゃったぁ〜!」
ベロを出して自分の頭をこつんと叩く彼女もかわいかった。
「──で、ラストどうなったの?」
この時、私は決めた。
筒竹さんのために何かしてあげたい、と。そして私のできることといえば決まっていた。
彼女に純文学を教えてあげよう。
彼女の頭をよくしてあげるんだ。