都々、頭をよくしてあげよう(三)
筒竹さんと明日、映画館デートすることになった。
そうするとお金のことが問題となった。男たるもの、彼女の分もおごらないといけない。たぶん。
しかし私は貧乏なのである。
父は無職だし、母は月に数回しか帰ってこない。
家に帰るとすぐさま私はばあちゃんに聞いた。
「ばあちゃん! 今日、勝ったか?」
ばあちゃんは無言で、鬼のような顔を私に向け、ブラックサンダーを食いちぎることでそれに答えた。ばあちゃんがパチンコで勝っていれば、お小遣いをねだることもできたのだが……無駄なようだ。
私はアルバイトはしていない。
するつもりもない。
精神的ブルジョアであるこの私がアルバイトなどとは考えたこともなかった。
ドストエフスキイ『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフのごとく、頭のいい善良な人間はアルバイトなどという小市民のような労働はせずとも、頭の悪い金貸しのババアを殺して金品を奪っても良いものと考えていたのである。
しかしそんな金貸しのババアなどに知り合いはなかった。
実のババアも今日は金を持っていない。
さてどうするか──
対角線の部屋の隅で白いフェレットを抱いてブツブツ何やら呟いている妹の心美のほうを頼るように一瞬、見たが、すぐにコイツは駄目だと悟った。
無職の父はスマホでエロい動画を見ているようだ。声が漏れている。コイツ早く出ていけばいいのに。
自分のスマホを質に入れて……などと考えたが、できない! 私は精神的貴族なのだぞ!
金……金! なぜ人間は、金などに支配されているかのように、金に振り回されなければならぬのだ! 馬鹿げている! 人間は金の下僕だとでもいうのか?
私がそう考えた時、スマホで誰かと話していたばあちゃんが声を上げた。
「その台、押さえとけ!」
そして勢いよく立ち上がると、苦み走ったギャンブラーの笑いを浮かべ、私たちに言った。
「今夜は焼肉だよ! どっかの馬鹿なジジイが美味しい台を途中で捨てて帰っていってくれたらしい!」
私は咄嗟に叫んでいた。
「──俺、今夜ブラックサンダーでいい! 明日デートなんだ! 資金を恵んでよマイ・グランドマザー!」