二十三、都々、頭をよくしてあげよう
もふもふとジャムパンを食べている筒竹都々さんを、グラウンドの片隅で見つけた。
「やあ」
彼女の後ろから近づき、声をかけると、筒竹さんはひょこっと振り向いて、ジャムパンに食いついたままの顔を少し赤くした。
「北村くん、なんか久しぶり」
「アメフト部をやめたからね。……筒竹さんもマネージャーをやめてしまったのかい?」
「うん。キャサリンってひとが入ってきて、その迫力に押し出されちゃった」
確かにあの押しの強いキャサリンに、『ふつうの象徴』みたいな筒竹さんが出会ったら、それは物語から押し出されてしまうだろう。
しかし私は彼女の姿を見て、やはりホッとした。彼女は見るものを安心させ、安堵させるような、偉大なるふつうさをもっている。
そうだ。『ふつうは偉い』とか言うではないか。
ふつうに生き、平凡に物事を感じ、社会という大海の一雫である自分を嘆くことなく、ふつうな運命を受け入れ、けっして選民思想などに傾くことは一生なく、純文学ってなんだか難しそうと敬遠し、平凡を受け入れて葬祭センターで荼毘に付されるような、そんな彼女にたまらなく魅力を覚えてしまったのは、やはり私が真実を知ってしまった選ばれし認識の戦士であるからだろう。
そう、自分と違うものをもっている人間には強く惹かれるものなのだ。
私は決めた。
彼女を私の二股の相手にすることを。