二十二、キャサリンの下
キャサリンはそのデカい尻の下に私をいきなり敷いてきた。
「いい? 北村直樹くん。純文学はオトナの小説でなければいけないの。地に足のついてないファンタジーなものなんてだめよ。だからね、恋愛も酒場の女将と純文学作家がするような、そんなオトナの恋愛を描かないとだめ」
「あなたは……何ですか、いきなり!」
私はキャサリンの尻の柔らかさはしっかり楽しみながらも、苦情を言った。
「僕は洛美原先輩に会いにきたんだ! どいてくれ!」
「フフ……。お生憎さま。ラクビーはもう、あたしのものよ。あたしと恋に落ちた末に車で崖から転落するフラグが既に立ってるんだから」
「何を言っているのかわからない!」
力強い尻だった。
この尻の下に轢かれたらどんな朴念仁でも、たとえ問題児だったことで有名なヘルマン・ヘッセであろうとも車輪の下に敷かれたように、従順な生徒となってしまいそうなほどに。
「キャサリン!」
懐かしい、逞しい男の声がした。
「やめろ! 北村に押しつけるな!」
「洛美原先輩!」
私は涙を流し、先輩にむかって手を伸ばし、助けを求めた。
「助けてください! この尻の下は気持ちよすぎる!」
「フフフ……。すべてはもう、決まっているのよ」
キャサリンは私を極めながら、太ももで私の首を締め上げながら、言った。
「現実社会を受け入れ、私のお尻を受け入れ、その上に物語を描きなさい。オトナの物語を描きなさい。純文学はオトナのものなんだから」
「違うぞ、キャサリン!」
洛美原先輩が、力強く言った。
「純文学は脳味噌の硬化したオトナのものではない! むしろ頭の柔らかい若者こそが創り出せるようなものだ!」