二十一、狭い門
私は力を尽くしてトーコの狭いほうの門にも突入した。
「純文学作家だって幻想の中で生きているのよ!」
トーコは新たなブンガク行為に興奮し、面白いことを喋ってくれた。
「フランスの文豪、アンドレ・ジイドはね、幼馴染みの奥さんを神聖視するあまり、自分の妻はえっちなことはしないものだと信じて疑わず、非生産的なBLで己の性的欲求を満たしていたの!」
「すげえ」
トーコの狭き門を潜り抜けると、私にも甘い幻想の世界が訪れていた。
ブンガク行為が終わると、ひとつの枕に頭を並べ、純文学について、真実について、また漫画についても、お互い穏やかな笑顔で語り合った。
この幸福な時間と空間は、果たして現実だろうか?
確かにこれは私を取り囲んでおり、私の妄想などではけっしてない。
しかし、この幸福が、永遠に続くように信じてしまっている、私のこの想いは、現実というよりも錯覚なのであろうか?
今は幸福だと思えても、こんな気持ちはいつかは幻想だったようになくなってしまうものなのだろうか?
それならば、この愛は、幻想なのだろうか?
トーコとは結婚を約束し合い、雪国で別れた。
彼女は愛知県に帰った。
私は岡山県に帰った。
大学に戻った私は、久しぶりに洛美原先輩に会いたくなり、アメフト部が練習しているグラウンドを訪れた。
するとそこに、いたのである。
洛美原先輩にも負けないほどの肉体美をもった、ハーフの女性が。
「あれっ……? マネージャー、変わったんですか? 筒竹さんは……?」
するとハーフの美女はこちらを向き、私を蹂躙するような威圧感で、私より高い背の上から、言ったのだった。
「あなたが北村直樹くんね? 噂はラクビーから聞いているわ。はじめまして、私は減間キャサリン。私があなたに純文学の必要なさを教えてあげるわ」