表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/93

二十、境目のない世界

 トーコの言うとおりだった。


 奇跡が起きたように、お金もないのに私たちは旅館を出て、物語は先へ進んだ。


「高橋源一郎先生によると、奇跡とは何の説明もなく、強引なくらいに物語が先へ進む、漫画のようなものなのよ」


 トーコのことばに私はしかし、少し首をひねった。

 この物語は純文学であるはずだ。漫画ではない。果たしてそんなんでいいのか──と。


 しかしトーコはそんな私の内心を察したのか、ふふっと笑い、教えてくれた。


「古典的な純文学ならあり得ないかもね。でもポストモダン文学ではそれもひとつの主流となっているの。ポップ文学なんて支離滅裂に奇跡が起こりまくるし、マジック・リアリズムにしても、現実的な脈絡もなく、少女が空を飛んでいったり、トンネルを抜けたらワープしたりするのよ」


「じゃあ、純文学と大衆小説の違いって、何なんだ」


「大衆小説はウケなきゃ意味がない──それだけよ。大衆小説や漫画にも真実の毒を練り込んでいるものはある。純文学にもじつは大衆ウケする、毒にも薬にもならないような、気持ちよくなれるだけのものはある。純文学と大衆小説の境目なんてほんとうは曖昧で、現代ではそれは出版社が決めるようなものなのよ。大衆小説や漫画の作者さんを表面に見えてるところだけで決めつけてはだめ。売れるために自分を殺してる場合も多いんだから。ちびまる子ちゃんの作者さんなんて、ほんとうはほぼ哲学者みたいだったんだから」


「境目はどろりと溶けているのか」


「そうよ。だから──」

 トーコが私を布団に押し倒した。

「わたしたちもひとつになりましょう。さぁ、抱いて! 溶かして! ひとつになりましょう!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ