三、嘘と幻想に覆われようとする世界を破壊せよ
脱ぎ捨てたボクサーパンツをすぐに穿き直すと、洛美原先輩がまた言う。
「純文学とはつまり、ありのままの真実を描こうとすることなんだ」
「なるほど! だからホモっ気のない僕たちの間には、何も起こらなかったのですね?」
私は深く納得した。
「コンプライアンスなど存在しないのが純文学だ。差別用語といわれるあのことばも、嫌がるひとが多いので使えないあのことばも、純文学ではありのままに使用して良いのだ」
「なるほど。じゃあキ◯ガイ──うっ……? なぜか使えませんよ? 謎の◯が入ってしまいます!」
「アカウントを消されるのは嫌だからな。そのへんは弁えておかなければならない」
「しかしこんなことを続けていれば……世界が嘘と幻想で覆われてしまいはしませんか?」
「どういうことだ、北村」
「海外では、日本発のウェブ小説に影響され、死んだら異世界に転生できると本気で信じて大型トラックの前に飛び出し、自殺する若者が増えていると聞きます」
「大型ドライバー大迷惑だな」
「特に若者は、虚構と現実をごちゃ混ぜにしてしまいやすい。そんな若者たちに真実を隠し、綺麗な嘘ばかりを見せることは危険なのではないでしょうか?」
「若者ってそんなにバカだろうか? 北村、あまりネットの情報に流されるな」
「とはいえ──僕もじつは長いあいだ、ありえないようなファンタジーを実際に信じていました」
「……と、いうと?」
「自分が生きていることには意味があるなんて、本気で信じていたんですよ」