十九、透明な火花
洛美原先輩が言っていた『呪術廻戦』のことも私は気になった。
アメフト部の男たちが皆、夢中になっているという、その漫画のことが。
トーコに聞いた。
「呪術廻戦も読みたい! あるか?」
「わたしの家に行けば既刊ぶん全冊あるわ。ぜんぶ古本屋で買った値段シールつきだけど」
「それじゃあ、ぼちぼち、この旅館をチェックアウトしないと」
「そうね。帰りましょ」
「しかし問題が──。もう10日も宿泊している。僕は金がないんだ一銭も」
「大丈夫よ。言ったでしょう? わたしは大衆小説の象徴なの。世界はわたしの都合のいいようになるわ」
「どうするんだい?」
「『ザ・ボーイズ』というアメリカのドラマを知ってる? スーパーヒーローの裏の姿を描いた、えげつないドラマよ」
「へぇ! それはなんだか真実を描いた──純文学みたいじゃないか」
「ところがこれがヒーローと敵対する主人公たちにとってとても都合よく展開するのよ。たとえば主人公たちはダイヤモンドの皮膚をもつヒーローを捕らえ、お尻の穴から爆弾を埋め込み、内側から爆破しようとするの」
「えげつないな!」
「ヒーローは閉じ込められていた檻から逃げ出し、起爆装置を手にした主人公と対峙する」
「ほうほう……。それで?」
「主人公は気の優しい男の子よ。『押すぞ』と起爆装置を見せつけてヒーローを脅すけど、なかなかそれを押せなくて──」
「逃がすのかい?」
「スイッチを押せない主人公の肩をぽんと優しく叩いて、ヒーローは逃げようとするの。でも結局、主人公があっさりスイッチを押して、肉片が飛び散るのよ」
「えげつなっ!」
「ヒーローはなぜ、主人公から起爆装置を奪わなかったのかしら? 主人公はただの人間よ。しかも自分を監禁してた。最初に出会った時には殺そうとした。それなのに、自分の命を主人公の手に握らせたまま、ただ肩をぽんと優しく叩いて、監禁されてた建物を出て行こうとしたの」
「なぜなんだ?」
「それに、主人公の仲間の元FBIのごっついおじさんがそのヒーローと、勝つ気マンマンで闘う場面があるんだけど、おじさんは知ってるはずなのよ、そのヒーローがダイヤモンドの皮膚をもってて、ピストルの弾すら通用しないって。それなのに、勝つ気マンマンで、素手で闘うの」
「な……、なぜなんだ?」
「そのほうが面白いからよ」
トーコは言い切った。
「わたしたちも、宿泊代が払えなくてここで延々とアルバイトをするようになる等の展開になって、物語を先に進められないより、サッサと次にいったほうが面白いの。だから、大丈夫よ」
この部分のサブタイトルが思いつかなかったので、現在読み進め中の、某なろう作家さまの作品より無断でそのまんまお借りしましたm(_ _)m