十五、不滅の刃
しかし私は、初めてにして、彼女の期待の地平線の少し上をイケるものであろうか?
私がもじもじしていると、トーコは百戦錬磨の文芸評論家のように、私を導いてくれた。
「ねぇ、考えてもみて? やることにそんなに多くのパターンがあると思う?」
「セクシービデオで見る限り、大抵同じようなパターンだ」
「ミラン・クンデラ先生も仰ってるわ。人間の仕種──つまりはパターンの数は、人間そのものの数よりもずっと少ないって」
名言だ、と思った。
さすがはノーベル文学賞を獲れそうで獲れなかったチェコの衒学作家だと思った。
トーコはさらに教えてくれた。
「純文学にしろ、大衆小説にしろ、作品の数よりもパターンの数は少ないものよ。純文学ではそのパターンを新しくするために、もはや小難しいことを言ったり支離滅裂なものを書いたりするしかないの。行き詰まっているのよ」
諏訪の家で出会った四人の文士たちを思い出した。
確かに意味のわからないことをさも高尚ぶって論じていたが、あれはそういうことであったのか。
「それでもあなたは新しいセクシービデオが出ても、飽きたりはしないでしょう? どうしてだと思う?」
「女優が変わるからだ!」
真理を見つけた気がした。
「同じパターンでも、誰がやるかによって、新たな興奮は得られるのだ!」
「そう──。それに、あなたの感じ方のこともあるのよ」
トーコは優しく私を導いてくれた。
「人が何かを感じるのは、いつでも新鮮なものだもの」
そう言って──そこへ導いた。……あっ。