果てしなき議論の果てに(五)
諏訪家からの帰り道を歩きながら、私は既にヘトヘトに疲れていて、自分の家に辿り着けるのかどうかすら不安になってた。
諏訪のことばが重く頭の上にのしかかっていた。
「大衆はバカだ」
町を歩き、色々なバカを見た。
スマホを見ながら自転車を漕ぎ、脇道から出てきた子供に気がつきもしない大学生──。自動車は自分だけが先に行こうとして渋滞の列に突っ込み、渋滞をさらに酷いものにしてしまっている。飲み物を買おうとスーパーマーケットに入れば買ったものを袋詰めするコーナーでカゴと商品を横に並べて三人ぶんのスペースを一人で占用しているおばさん三人ですべての場所を埋めてしまっていた。
こんな大衆のために、私は何を書こうとしていたのだろう?
「大衆はバカだ……」
私は歩きながら、思わず呟いた。
「しかし、彼らもバカだ」
諏訪家で出会った四人の文士のことだ。
彼らも私の目にはバカだとしか映らなかった。
真実を追求しているというよりは、彼らはただの文学気取りだった。文学っぽい表現を楽しんでいるだけの、いわばあれは優雅なファッション文学だ。 今の時代にそんな貴族みたいな優雅さに意味があるだろうか?
意味がわからないことばっかり言う彼らに囲まれて疲れてしまった。
そんな中で諏訪だけは、私の頭の上にとても重たいことばを残したのだった。
私はあの部屋で、諏訪に訊ねた。
「こんな場所があるのに、諏訪くんはどうしてあの大学サークルに参加しているんだい?」
諏訪は答えた。
「純文学にばかり身を浸していてはあまりにも浮世離れしてしまうからね。大衆の中にも一応身を置いていなければ」
……そうか。
諏訪は偉いな。
大衆をバカだと識りながらも、そこから離れては、あのファッション文士たちのような自己満足の世界に堕ちるしかないのだな。
ここまで考えて、ふと気づいた。
思わず声に出た。
「俺は大衆じゃないのか!?」