果てしなき議論の果てに(四)
諏訪の書いた小説を初めて読んだ。
それは文芸部室で書いていた、あの世界最長ギネス記録を狙ったものではなく、webの小説投稿サイトに書いたものだった。
タイトルは『豪邸に産まれたボンボン息子が己の身分に反抗して真面目に生きるも大衆に妬まれて地獄に突き落とされるが蜘蛛の糸を辿って返り咲くまで』だった。
なっげータイトルだなと呆れたが、読んでみると文章は簡潔で、しかもその表現は平易ながらも奥深く、彼の才能を感じさせるものだった。
現在108万文字超えのその作品を三千文字ほど読み、私は賛辞の『いいね』を贈り、ブックマークを入れると、顔を上げ、言った。
「面白いじゃないか! しかもなんだか深いテーマを扱っている! 真実の毒がピリリと効いている!」
すると諏訪は血走った目をニヤリと笑わせ、おおきな口をサメのように開け、言った。
「その『面白さ』が曲者なんだ。みんな面白がるばかりで、俺の最も伝えたい真実を読み取ってくれない」
「え! こんなにあからさまに書いてあるのにかい?」
「『なんかヘンテコで面白いな』としか感じてくれないんだ。畢竟、大衆は真実などどうでもいいんだと、これを書いて気づいたよ」
「真実が……どうでもいいだって!?」
「町へ出てみなよ。大衆は皆、自分のことしか考えていない。ゴミをポイ捨てし、誰かに代わりに片付けさせ、スマホの画面を見ながら歩き、相手が避けてくれなかったら文句を言う。そんな、自分だけの心地よさしか求めない大衆が、真実なんて欲しがると思うかい?」
諏訪は目をおおきくカッ! と見開くと、言い切った。
「大衆はバカばっかりだ。そんな大衆を相手に物を書くことにどんな意味がある?」