果てしなき議論の果てに(三)
私はびっくりして、叫んだ。
「しかし、これでは誰にも伝わらない!」
「いいんだよ。自分さえ満足してれば。意味なんかとられたら井村◯から営業妨害って言われかねないからね」
「では……! これは誰に向かって書いているんですか?」
すると四人は『やれやれ』というふうに首を振り、バカにするように私を横目で見ながら、笑いながら喋りはじめた。
「もうすべてのものは既に書かれているんだよ」
「残っているのは形──それだけだ」
「我々のこの崇高な遊びがわからないとはね」
「ジャック・ラカンやデリダを読んだことがないのかな?」
そして私を無視して、再び熱い議論を繰り広げはじめた。
「◯村屋は社会悪のメタファーなのだよ」
「では、媼に込められたメタファーとは? 自然主義に帰結するものなのだろうか?」
「おい君、いくらなんでもそれは古典主義思想が過ぎる。君は19世紀からやって来たのか?」
「なんとなくクリスタル」
のけものにされている私の後ろから諏訪がやって来て、同情するように笑いながら、コーヒーとモナ王をくれた。
どちらかといえばバニラモナカジャンボのほうが好きな私は一瞬ためらったが、彼の温かさをアイスクリームに感じてそれを受け取ると、口に入れた。
ふにゃっとしたモナカと、とろっとした白いアイスの安っぽいハーモニーが、なぜだか今はとても有り難かった。
しんみりとモナ王を齧る私に、諏訪は言った。
「芸術を純粋に追求する彼らと違い、僕は大衆を面白がらせるようなものを書いている。それはそのモナ王にこっそりと毒を混ぜたようなものだ。読むかい?」