果てしなき議論の果てに(二)
ドキドキしながら彼らが読み終えるのを待った。
千五百文字程度の短編だったので、彼らはすぐに読み終えると、何やら考え込んだのち、カッ! と目を見開いて激しく語りはじめた。
「ポストモダンのさらなる後へと飛ぼうとするこの勇敢な行為の……その先は虚無だ!」
「いや、ニヒリズムは新たなる文学の境地へ飛ぶための試金石となるだろう!」
「とはいえこの作品において、シニフィアンとシニフィエの乖離はあまり問題とされてはいないのではないか!?」
「いやいや! 君、この作品をロシア・フォルマリズムで読み解こうとするのは愚行だよ!」
何を言ってるのかわからなかった。
わからなかったけど、自分の作品をネタに熱く語ってもらったのが嬉しくて、私のほうからも彼らの作品を読ませてほしいとお願いした。
すると文士の一人が自信たっぷりの面構えで原稿用紙一枚を私に差し出してきた。先ほど四人が取り囲んで熱く議論を交わしていたその中心にあったものだった。
私はそれを読んだ。
とても短い……詩のような文章だった。
甘き媼色の宝石
都市に氾濫する氷に閉ざされた小豆色には薄い毒が練り込まれている。私は知っている幼少の頃から真のクリスタルに慣れ親しんできたのだ。媼がその愛情ある皺だらけの手をもって注ぎ込む天然の宝石には、私を俗に塗れた社会から解放する。そんな陶酔があった。
さっぱり意味がわからなかった。
でも、なんだか立派で、純文学らしい、真実を記した文章っぽいと思ったので、褒めた。
「素晴らしいと思います。その……よろしかったら解説をお願いしてもいいですか?」
すると作者は語った。
「アッ、これ? これはね、井◯屋のあずきバーよりもうちのおばあちゃんが作ってくれる手作り小豆バーの方が絶対美味しいってことを◯村屋にバレないように、わざとややこしく書いてるんだよ」