六、果てしなき議論の果てに
私は誘われ、諏訪の家にやって来た。
なかなかの豪邸だ。父上のご職業が何かは知らないが、相当にいい暮らしをしているらしい。
広いリビングルームに入ると、既に文士たちが集まっていた。四人が原稿用紙を前に何やら熱のこもった議論を戦わせていたが、諏訪が入って来たのを見ると立ち上がり、こちらへ向かって挨拶をした。
「新しい仲間を紹介するよ。北村直樹くんだ」
諏訪に紹介され、私はぺこりと頭を下げた。
部屋にはラベンダーらしきアロマが焚かれ、高尚な雰囲気が漂っている。
四人は皆、病弱そうな青白い顔をしていた。
「まぁ、気にせず議論を続けてくれ給え」
諏訪が言うと、四人は再び議論に熱を上げはじめるかと思いきや、私に向かって笑顔で訊いてきた。
「どのような小説を書かれるのですか?」
「是非、読ませてくれませんか」
私は照れながら、自分の処女作を彼らに差し出した。スマートフォンで──
スマホで小説を書いていることを、いかにも前時代の文士っぽい彼らにはバカにされるだろうか? と思ったが、意外にも好意的な反応が返ってきた。
「なるほど! 現代においてはweb小説はじつは重要な意義をもつということを理解されてらっしゃるのですね?」
「異世界転生はある意味ポストモダンと言えますからね!」
「世界そのものを疑う視点は必要なものだ!」
「いやいや、しかしwebは馴れ合いの場所である場合がほとんどではないか? 芸術としての文学は、果たしてそこにあるのか?」
「まぁ、とりあえず北村氏の作品を拝読してみようじゃないか」
彼らは奪い合うようにして、私のスマートフォンで、私の処女作『大型トラックに轢かれたけど異世界に転生しませんでした』を食い入るように読みはじめた。