諏訪家のほうへ(三)
直樹は大学の文芸サークルに入部することにした。
ここならば志を同じくする純文学の強者がいると思ったのだ。
「いらっしゃーい。入会希望者? ぼくが会長の田良尾です」
名前がチャラ男に聞こえた。
早速、ネットに投稿して見向きもされなかった処女作を見せると、田良尾は苦笑いをしながら、言った。
「こんなの全然面白くない。テンプレ展開にもっていかなきゃダメでしょ。読者はみんなそういうお約束の安心感を求めてるんだから。あと、エロを入れなきゃダメ。エロは売れる。売れないものに意味はないからね」
直樹は口ごたえをした。
「私は真実を書きたいのです! 純文学とは嘘や幻想を破壊し、大衆を馬鹿げたファンタジーの檻より解き放ち、己の頭で物を考えられる『個』とするものであるはずです! ここは純文学を究めるための場所ではないのですか!?」
田良尾は苦笑いで顔をいっぱいにし、言った。
「へー……、そうなんだ? そういう人なのね。それなら諏訪と友達になったらいいよ」
「諏訪?」
「ほら。あそこの席で今、原稿用紙に向かって猫背になってるヤツさ」
直樹が視線で指されたほうを見ると、そこにはやたらと背の高い、ぼさぼさ髪の、目つきのイッている男が、取り憑かれたように原稿用紙に万年筆をはしらせていた。