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時刻は午前2時。
宿屋の2階で、爺閣下がこっそりベッドを抜け出した。
別に誰かの所に夜ばいをかけに行くわけではない。
爺閣下は抜き足さし足忍び足で階段を降り、WCと書いてあるドアを開けた。
ようするにトイレである。
爺閣下「すっきりしたぞなもし」
爺閣下がそう呟きながらトイレを出た時、何かにぶつかりそうになった。
ここは寝ぼけてても盗賊。
爺閣下はサッと避けたが、次の瞬間驚いた。
爺閣下「お…俺っちぞな?」
そこには、爺閣下にそっくりな人が立っていたのだ。
ドッペルゲンガーか?はたまた生き別れた双子の兄弟なのか?
「俺っちは一人っ子だぞなもし!」
おっと…爺閣下に否定されてしまった。
じゃあやっぱりドッペルゲンガー?
爺閣下「おぬし…魔物クサイぞなもし」
爺閣下が言った。
なる程、魔物が爺閣下に変装しているらしい。
ニセ爺閣下「ふっ…鼻がきくらしいな。まあいい、どーせお前はこの場で死ぬ運命なのだからな!」
ニセ爺閣下が言った。
トイレの前で、戦闘開始である。
───ニセ爺閣下が現れた!
爺閣下「偽物の分際で、本物を倒そうだなんて無礼もいいトコぞなもし」
───爺閣下はネッシー(死ねを反対にしてちょっといじっただけ。つまり、死ねという呪文である。爺閣下は、一応魔法使いでもあるのだ)を唱えた!
ニセ爺閣下「ナヌ!?」
───ニセ爺閣下はあっけなく死んだ。
───戦闘終了。爺閣下はニセ爺閣下を倒した!
戦闘時間が短いのは、制作者の陰謀に違いない。
爺閣下「仲間が危ないぞなもし!」
さすがにそこまで頭は悪くないらしい。
爺閣下は仲間の元へと向かった。
───が…他の仲間の偽物達は、まとめてお嬢に片付けられていた。
爺閣下「つ…強いぞなもし」
爺閣下があっけに取られている中…
お嬢「夜更かしは美容の敵なのに~」
お嬢はそう言うとベッドに戻って数秒で再び寝つき、那月は何事もなかったかのように寝ていた。皆、太い神経の持ち主らしい。
再びベッドに戻った爺閣下も、数秒で眠りについていた。
───朝。
パーティが何事もなかったかのように目覚めると、ベッドの横にモンスターの死体が重なったままだった。
那月「きゃーでちゅっ!なんでちゅかコレ?」
本とに何も気付かずに寝ていた那月は驚いた。
お嬢「あーソレ、夜中に睡眠の邪魔したから皆殺っちゃったんだよね」
あっさりと言うお嬢。
パーティに化けていた魔物達の姿は、お嬢に倒されてそれぞれの姿に戻っていた。
那月「邪魔、でちゅねー」
そう、問題はこの死体の処理である。
普通のRPGの場合、戦闘後に何故か死体が消えてたりするのだが、制作者の陰謀により、【JEST】では死体が残るのだ。
お嬢「窓から捨てちゃえばいーんじゃない?」
お嬢がアッサリ言った。
那月「そでちゅね」
那月もあっさり頷く。
かくして死体は男達の手によって、窓から外に投げられていった(女達は「か弱いから出来な~い」と言ったらしい。嘘をつけ、である)。
一人応援だけしている者(勿論応援狼)、那月に言われて手伝わなかった者(那月のお気に入りの猫パンチ)もいたが、死体は全て処理された。
爺閣下「そいえばトイレの前にも死体が1体あるぞなもし」
爺閣下が倒した魔物である。
そこまで言ってから、爺閣下は気付いた。
爺閣下「なおこちゃんは、無事ぞなもし?」
この宿屋にいるのは、パーティだけではないのだ。
一同はぞろぞろと、階段を降りていった。が…
なおこ「みなさんおはよーございます~」
何事もなかったかのように、なおこは言った。
どうやら本物らしいが…。
爺閣下が一安心してトイレの前に行くと、死体が消えていた。
爺閣下「…なおこちゃん…トイレの前にあった死体、知らないぞなもし?」
爺閣下が戻って言うと、
なおこ「邪魔だったから片付けちゃいました~」
なおこはあっさりと言った。
まさか…
なおこ「夜中に私ソックリな人が来て驚いたんですよね~。気持ち悪いから殺したら、魔物だったんですけど!なんか町の中の人も消えてるみたいだし~、この町って、魔物の町だったんでしょうかね~?」
なおこが笑顔で言った。
皆がなおこの事を、あなどれんと思ったのは言うまでもない。
なおこ「皆さんの出発と同時に、私も次の町に引っ越そうと思ってた所なんですよ~」
かくしてパーティとなおこは町を出て、それぞれの目的地に向かって旅出ったのであった。