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第37話 ラブとコメディを込めて

「さあライブももうすぐ終わりなんで、いい感じにしめてもらえます? ハクトくん」


 そろそろライブが終わるという時に、クロノが台本にない発言を放り込んできた。


「へ!?」

「いや恒例の無茶ぶりタイムですよ」

「今回が初回ですし、無茶ぶりを恒例にはしませんからね」


 客席からどっと笑いが起こる。歌って、ギター弾いて、踊って、盛り沢山のライブだった。盛り上がりすぎて暴走しないか心配になるくらいには、盛り上がったライブだった。冒頭数分を各々のチャンネルで無料公開していたが、その枠もかなり盛況だった。勝手に客席に降りたクロノはお説教が確定していたが。


「え〜と。……冒頭にクロノが、『応援してくれてる人が嫌な気持ちになるものを届けるために赤城クロノがいるわけじゃないので、そこの自覚がなかった』って言ってたじゃないですか」


 さすが声真似に自信があるだけあって、録音したものをそのまま流したんじゃないかってくらいクロノそのもの声で再現をする。これには本人も苦笑いだ。客席は湧いている。


「よく覚えてんね。てか物真似うますぎね?」

「ちょっと演技経験ありまして。それで。嫌な気持ちになるものの反対はなんだろうって、ちょっと考えながらライブしてたんですけど」

「余裕だな?!」

「余裕はないです! でも、クロノがいいこと言ってる感じで、ちょっと悔しいなって思ったんですけど、個人じゃなくてユニットとして何かって思ったんですけど、やっぱ思いつかなくて」

「お、おう。別にいいんだよ? ハクト単体でいいこと言っても」


 ハクトは首を振った。


「そういうのは配信で言えばいいので。それで、嫌な気持ちの反対は、心配の反対は、今お客さんがやっているように、ただ笑ったり音楽聞いたり、そういう時間なんじゃないかなって思って。……ラブとコメディですね」


 客席が静まる。クロノがゆっくりと息を吐いた。


「あ〜。うん。ハクトくん……つまりどういうことだってばよ? いや否定してるわけじゃないのよ? ちょっと語彙力すごすぎてオレ様がお口ぽかんだから教えて?」

「え、あ、その、愛と喜劇みたいなことを、あの、その、広義の愛情とそれに伴う安心をというか、あと面白さをコメディと言ったんであって……あの、その、ごめんなさい。すみません許してください」

「あ〜ね! なるほど愛と喜劇ね! そういう感じね! 理解理解。いいこと言ってんじゃん! みんな拍手!」


 割れんばかりの拍手が起こる。


「もー! みんなして生温い目でボクをみないでくださいよ! いいですよ、滑ったんです!」

「いやいや、気に入ったのは本当だぜ? 今度ユニット配信の挨拶にしようよ。インターネットからラブ、アンド、コメディ! 感情交差点です! ってね。いい感じじゃん」

「バカにしてるでしょ?! ねえ‼︎」


 再びの割れんばかりの拍手の中、舞台は幕を閉じた。演者二人は別室に移動し、ネットに接続して一対一のファンミーティング兼2ショット撮影会へと向かった。




※※※




「大盛況だったね〜」


 お客様がみんな帰った後、バイトさんにもお給料を渡し、片付けの終わったライブハウスは、なんだかがらんとして見えた。


 祭りの後の物悲しさというか、なんだか達成感より疲労感が強い。


「もらったプレゼント、どうすればいいですか?」

「一応変なもの入ってないか確認するから、そこのダンボールに入れといて」


 ライブ後の撮影会も盛況だった。ファンレターやプレゼントを画面の前に置いていってくれるファンも多く、和やかな雰囲気だった。みっくんはお葬式の献花みたいだ、と縁起でもない表現をしていたけど。


 アイドル系の現場に行ったことはないんだけど、こういう現場なら参戦したいなって思った。規模が大きくなるとこんな気軽には開催できないだろうけど、また開催したい。みっくんのコネとはいえ、ライブハウスとも縁ができたし。


「恋沼さん、これダンボールに入らないんですが」

「え? 何もらったの?」


 振り返って、思わず吹き出してしまった。


「そ、そんな笑わなくても」

「だってぇ。犬が犬抱えてんだもん」

「それはそうですけど、言い方考えてくれてもよくないですか⁈ 三ツ星もそうですけど人のこと犬扱いして。僕()普通の成人男性ですから!」


 大輝が抱えていたのは、幼稚園児くらいある大きな犬のぬいぐるみだった。


「ごめんごめん一応預かるね」


 大輝からぬいぐるみを受け取る。かわいいし、微笑ましいプレゼントである反面、ぬいぐるみはGPSが仕掛けられてたり、妙なもの詰め込まれてたり、ヤバいプレゼントの温床になってるから気をつけないとね。とりあえず事務所から持ってきた金属探知機を通そう。


「やっぱ着ぐるみは暑かったですね」


 たしかに冬場とはいえ、被り物をして、ダンスして歌っては重労働かも。夏場は開催できないな。事実、大輝は髪がびっしょり濡れるほど大汗かいている。


 並んで舞台に腰掛けていると、大輝が意外なことを言った。


「……恋沼さん、ライブ楽しめました?」

「へ? もちろん」

「良かった。僕は楽しかったけど、何かと大変だったし、やりがい搾取になってたらどうしようかと」


 やけにネガティブだな、と思いつつ、そう言えば大輝はもともとネガティブなこというタイプでもあったな、とデビュー直後のことを懐かしく思い出す。濃い日々だったな、ここまで。


「……ちょっと不安だったんです。僕もデビュー直後にいろいろあったし、クロノもいろいろで。Vの運営さんって離職率高いっていうし、恋沼さん辞めちゃったらどうしようなんて頭を過ぎることもあって」


 そう言って大輝は微笑みを浮かべた。


「あ、クロノについてはね、あの、僕はご存知の通り雄弁じゃないから、うまく言えないけど、恋沼さんが気に病むことは、なんにもないですよ。ネットでは事務所の管理責任どうのとか言われてますけど、おとなしく管理されるタマじゃないでしょ、あの人。今日だって勝手に客席に降りた時はひやっとしましたけど、そんなことでヒヤヒヤしてるようじゃこの先もたないぞって、思います」


 突き放しているようにも聞こえる言葉だけど、大輝の『あの人』には信頼と友情がこもっていた。私と彼らがちょっとずつ月日を重ねたように、彼らもまた、ちょっとずつ信頼関係を築いている途中なんだろう。


「だから、この先ヒヤヒヤさせられることがあっても、見放さないでいてくれると嬉しいです。それは僕にも言えることですけど、世間一般でいう処世術が上手じゃないだけで、本当は誰かと楽しいこと共有するの好きなんですよ」

「つまりはラブとコメディ?」

「恋沼さんまで。来年はこのネタでいじられ続けますね」


 大輝は首をすくめた。


「それから、もしよかったら、今まで通り、僕らと一緒に歩いてくれると嬉しいです。導いたり、追い立てたりするんじゃなくて、隣で見ていてくれる人が、僕らにはまだ必要だから。……そうやって少しずつ歩いてきて、今ここに来たから。これからもそうだったらいいなって。これはただのお願いです」


 まだ点いているライトが眩しくて、私は瞬きを繰り返した。大した距離ではない。それでも確かに歩いてきた道を、信じてみようと思った。


「ありがとう。大丈夫、やめないよ。私この仕事好きだもの」


 口に出したら、ストンと胸に落ちた。そうだ、私はこの仕事が好きなんだ。


「まあ、大変だけどね。でも鏡面に何言われても気にならないもん」

「……その鏡面さんですが、名前僕と同じなんですか? 代表から聞きました。ひどいこと言った人って」

「ああ読みが同じなだけだよ」


 そう言えばあの日、大輝はなんであんなタイミングよくあんな場所にいたのだろう。そのことを尋ねると、大輝はまた首をすくめた。


「恋沼さんって鋭い時と鈍い時のバグが激しいですよね。人との距離感もわりとバグってるっていうか……。僕がおかしいだけかもしれないですけどね。勝手に仲間意識もってたけど、恋沼さんて代表と同じ共学出身だし……中身は案外陽の人なのかもしれませんが」


 待って。話の流れが全然わからん。陽の人? 私が?


「共学って男女交際しまくりの青春満喫する場所だから……だから言動に深い意味はないのかもしれないですけど……」


 驚愕きょうがく共学きょうがく観なんですが。ダジャレになっちゃったじゃん。


 拗らせすぎでは? 男子校出身なのは知ってたけど、個人の特性として拗らせすぎでは? 共学のイメージが二次元しかないな、さては? 男子校のイメージがBL漫画しかない私と良い勝負だぞ?


「なんの話?」

「いや、なんでもないです。……あの場所にいたのは、代表から恋沼さんが珍しく飲み会に行くって話を聞いて、お店のアタリつけてウロウロしてたんです。事務所から近くて飲みに行けるとこ、いっぱいあるからなかなか見つけられなかったですけど」

「え、なんのため? 大変だったでしょ。連絡くれればすぐ店出たのになんの用事?」

「そういうところですよ。鋭いと鈍いのバグがすごいの」

「ん? そうかな、ごめん」

「だ、だから謝って欲しいとか、じゃなくて! だから!」


 な、なんか機嫌悪い?


「と、とにかく!」

「はい!」


 謎の勢いに押されて元気な返事をしてしまったではないの。


 私の肩に軽く手がそえられ、長いまつ毛ごしに目があった。手のあったかさは小さな子どもみたいだったけど、指は細くて長くて骨ばっていて、ああそうね、子どもの手ではないわね、なんて思った。


「本当のところ、どんな人だか知りませんが、僕らの、僕のことほっぽって良からぬ男と飲みに出かけたなんて、良い気分ではないんですよ」


 大輝ってこんな大人っぽい声してったっけ。こんなこという子だっけ。子、じゃないか。でも年は下。大人っていうには、ちょっと純粋すぎるところもあるけど、それは彼より歳を重ねた私だってみっくんだってある部分で、そこが社会に向いて……ってもう鏡面の発言はどうでもいいか。


 妙な顔の近さと美形の迫力に押されて、私の思考回路はくらくらと妙なことばかり考えてしまう。鏡面に嫉妬? 大輝が? いやいや思いあがるなって。


「ねー! 楽屋の荷物もってってー!」


 みっくんに大声で呼ばれなかったら、どうなったんだろう。どうもなりはしないけど、しないんだけど。


 心臓が、うるさい。

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