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第2話 引きこもりニート、職を得る? その②

 あの人だのその人だの紛らわしい、そいつの名前は鏡面(きょうめん)大樹(ひろき)という。私と同じ偏差値が微妙な私立大学を卒業し、私とは違い大手メーカーに新卒採用された。


 出会ったのは天文サークルの新入生歓迎会だった。サークルを通じて関わるにつれ、ぶっきらぼうで無口だけど、オタク趣味の話が合って、真面目なところが好きになった。なんでも話せるし親しい友達だと思っていた。だからこそ、社会に向いていない発言はかなり傷ついた。


「もうあの人のことはいいよ」

「うん、そうね」


 電話越しに美宇が大きく息を吸う音がした。


「それでね、ひかる」

「うん」

「お願いがあるんだけど」


 美宇の緊張した声に合わせて、こちらも背筋が伸びてしまう。


「あのね、ひかる。あたし学んだよ。世の中甘くない。こっちの足元見て、お金だけ持ってこうとするような人ばっかり。ひかるに教えてもらってVtuberを知って、自分でもやってみて、本当に楽しいんだけど、それだけじゃなかった」

「うん」

「画面から見えてたものって本当に一部で、気軽に自分でもやってみようなんて軽率だったんじゃないかなって、弱気になっちゃう時もあるよ」

「……うん」


 相槌しか打てないのがもどかしい。彼女の言っている通り、美宇にVtuberを布教したのは、何を隠そう私である。私と同じくらい、いやそれ以上にVtuberに魅了された美宇は、自分でもVtuberになって今に至る。その大変さもよく知らずに、焚きつけてしまったのではないかと責任も感じる。でも一介のニートな私に、美宇のためにできることなんてそうないし……。


「それでね、ひかるにお願いがあるんだ」

「私にできることならなんでもするよ」

「そう言ってくれると思った! さすが我が親友!」


 あれ? もしかして私、誘導かけられてた? 断りづらいぞ。


「あたしと契約して、うちの一期生のマネージャーになってよ!」

「……それ絶対に契約しちゃダメでしょ」

「お願い! 他に頼める人いないの!」

「いや、でも、ずぶの素人より、中途採用で、似たような業界の経験がある人を募集するとか」

「それで採用して失踪したのが旧マネージャーなの! もうあたし肩書きで人を信用しない! いい? だいたいね、新しい業界でノウハウもクソもないんだから、中途半端に知識があって偉そうな人より、一緒に切磋琢磨してくれる人の方がありがたいのよ。その点ひかるはどんな人となりかあたしがよく知ってるし、金持って逃げるようなクズじゃないの知ってるから安心できるの」

「う〜、でも、友達とビジネスすると揉めるって」

「小学生から喧嘩と仲直りを繰り返してきたあたし達なら、揉めても仲直りできるはず! 大丈夫、公私混同はしないよ。それにあたしのマネージャーじゃなくて一期生のマネージャーだから! あたしはパパの伝手でやり手の秘書を雇ったから心配しないで」

「う〜ん」


 親友の頼みだし、就職のチャンスだし、受けたいところではある。でも……私、でもって言いがちだな……歴だけは長いVtuberオタクとして見てみると、今の美宇の事務所は、言っちゃ悪いけど地雷臭しかしない。炎上解説のコメントはライン越えなので通報しているけど、だからって美宇のビジネスが成功してるとは思えない。ニートが偉そうなこと言えないけど……。


「今残ってる二人ってどんな人だったっけ。たしか男性が二人だったと思うけど」

「そう。配信未経験の男の子二人だよ。二人とも歌うま」

「オゥ」


 つまりは配信の経験がある人たちに逃げられて、業界のことがよくわかってない人が残った、と。しかも歌うま勢ということは、ゲームがうまいとか企画力があるとかでもなさそう。しかも男の人。彼氏バレで炎上している事務所に男。黎明期から伸びないと言われ続けていて、反例はいくらでもあるけれど、やっぱり伸びづらいことは否めない男。


「……どういう意図で採用した人たちなの?」

「あたしが才能に惚れてスカウト!」

「あ〜〜〜〜」


 美宇はパトロン気質というか、強火オタクというか、才能あるクリエイターには支援を惜しまない、経済をどんどん回していくタイプのお金持ちである。男性声優のオタクをしていたこともあるし、異性だからといって恋愛的な意味ではなく、単にいいと思った人を応援したくなって声かけたんだろうな、とは思う。美宇がいいと思った人材と、Vtuberに向いている人材がイコールかは……。


「……ちょっと考えさせて」

「わかった。二人のツブヤイターを共有しておくから見てくれると嬉しいな」

「いや、アカウント作ってた時に見てるんだけど……」

「情報追いかけてるとはいえ運営になるかもしれない目線で見たらまた違うでしょ」

「あ、うん、そうだね」

「じゃ、またね。いい返事まってる」

「うん……」


 申し訳ない気持ちで親友からの電話を切った。考えさせてとは言ったものの、受けたい仕事かと言えば、私の答えはノーだった。これは引きこもりが板についてしまっている私の問題でもある。鏡面のトラウマもあり、見知らぬ若い男のマネージャーとかできる気がしない。どんな人かは知らないけれど、仲良くなれる気がしないし、仲良くなったところでまた『社会に向いてない』とか、そこまで言われなくても『使えない』とか評価されて終わりだ。事実、私は引きこもりのニートなんだし、普通の人より『使えない』のは予想できる。


 それでも親友の頼みだ。困っているからには助けたいのが人情である。どう断ろうか悩んでいるところに、美宇からツブヤイターのURLが送られてきたのでタップした。

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