非運王女と影騎士様
「もしも今から言う私のお願いを断ったらお父様に今日のことを全て報告します。そして、私に卑猥なことをしていたともいいます。それを聞いたらどう思いますかね?それが嫌なら私とパーティを組んでください」
喫茶店に連れ、互いに自己紹介をしたらこんな提案をされ驚いている。
……だが、俺が驚いているのは脅されたからではない。
何故ティアリス王女は俺が6歳の頃から護衛していたか知っているという点。
だが、そう告げたティアリス王女は嘘をついていなかった。
国王様から聞いたということも本当。
俺の隠蔽は完璧だった。
普段から一切視界に入らず、人混みに紛れていたはずだ。
驚いて反応してしまったので、もう訂正することもできない。
一先ず整理をしようと思う。
まずは俺を誘うのは能力を買ってくれたから。
このままシラを切って国王様に報告されたら俺は追放されかねない。
そしたら家族と縁が切れるし、そんなのはなんて嫌だ。
まだ意図が読めないので、聞いてくれるかわからないがいくつか質問してみようと思う。
「いくつか質問があります。よろしいですか?」
「許します」
てか、脅す気ないだろう?
ティアリス王女は必死に俺を引き止めようとしているだけに見える。
そう思いつつ質問をする。
聞く内容は何故俺の存在を気づけていたのか、何故もっと早く接してこなかったか。
「何故俺の存在を気づけたのですか?……陛下から俺の存在を予め聞かされていたのですか?」
「いえ、お父様は影から守ってくれる存在があるとしか聞いておりません。……何故わかったか……それはなんとなくわかったといいますか」
ああ、なるほど。俺は無能だったということか。
完璧だったはずだ。
歴代で最も優秀と言われていたのに、この醜態。
細心の注意を常にはらい、完璧だと思ったけど、ザルだったらしい。
ショックを受けつつもティアリス王女の話は続く。
「今もそうですが?クロード様からは何故か波長のようなものを感じるのです」
「……は?」
「えーと。上手く言葉で説明できないのですが、なんとなくいると勘でわかるといいますか」
め……めちゃくちゃだ。
しかも嘘をついていないから逆に驚く。
波長でわかるって聞いたことねーよ。
そんなの隠蔽もクソもないじゃないか。もしかして生まれつきに固有魔法でもあるのか?
「……なら、尚更疑問ですね。常日頃からストーカーのように潜伏していた俺をパーティに誘うだなんて」
「え?何がダメなのですか?クロード様は私を守るために近くにいたのですよね?ストーカーじゃありませんよ」
「はぁ……」
少し感覚がズレているのかもしれないと思った。
まぁ、箱入り娘で、友人付き合いのないから仕方ないのか?
「最後の質問ですが、勧誘が何故今だったんですか?俺の存在に気がついていたならもっと早くすることも可能だったのでは?」
「それは……」
ティアリス王女は少し悩み始める。
今までの質問はスラスラと答えていたのになぜか、その質問だけ悩んでいた。
少し悩んで後で答え始める。
それは彼女の本音だった。
「嫌だったんです。あなたが私のそばを離れるのが、もう二度と会えなくなってしまうと思って。その杞憂が当たってしまいました。何故そうしようと思ったのですか?」
突然の質問、俺はスティッギー家のことを隠しながら答えられる範囲で話す。
「俺は失態を犯しました。目立ちすぎてしまった。あなたを危険にさらしてしまった。詳しい事はこの場ではお話しできませんが、こんなにもミスを犯した俺は学園を去らなければならない。今日のことは国王陛下にも報告をしなければいけない。そうしたら、俺の犯したミスが露見して役割を解任される」
「なんで手紙を最後に残そうとしたのですか?」
「自己満足ですよ」
もう今更だ。手紙で伝えるのではなく、直接伝えようと思った。
なので、意を決して話す。
「手紙に書いてある通りです。俺はあなたを幼い頃から見ていた。あなたは自分を犠牲にしてでも他人を助けようとする。それはあなたにとって美点なのかもしれませんが、俺からしたら愚かだと思います」
「何故ですか?人助けはいけないことなのですか?」
「いえ、人助けは大切なことです。ですが、あなたのやり方はただの自己犠牲です。俺は常に思います。善行の前に自分の幸せが1番大切だと。あなたは他人が助かるためなら、自分の身や心はどうでもいい。そう思えてならないのです。最後になると思ったから伝えたかったのです。もう少し自分を大切にしてほしい」
「……そうだったんですね」
「本来なら、黙って立ち去るするべきだったのでしょう。それでもこれだけは伝えたかった。それだけのことです」
今伝えたことを本音だ。
伝えたところですぐには改善されないだろう。
1人でそう思いつつ、話を進める。
「あの時、行動した過去の私を褒めたいと思います。私はこの手紙を読んだ瞬間、もう二度とあなたと会えなくなると確信しました。そして気がついたら体が勝手に動いていました。
ティアリス王女は疑問が解消されたのかすっきりした表情をしていた。
そして彼女の言葉は続く。
「私は幼い頃、運が悪いことが原因で一時期塞ぎがちでした。部屋から出たくない。大好きだった散歩も行きたくない。何もかもが嫌になりました。それを変えてくれたのがクロード様です。クロード様が私を守ってくれたから前向きに行動できるようになった。怯えることなく散歩をできるようになった。クロード様には感謝してもしきれません」
知らなかったことだ。まさかそんなことを思ってくれていたなんて想像もしなかった。
少し驚いていると、ティアリス王女は突然話の内容を変えてきた。
彼女は目を輝かせて話し始めた。
「私は世界中を冒険するのが夢なんです!自分の目で見て、実際に触れて。いろんな未知を探求したい。昔から冒険譚を読むのが好きなんです。もう何十冊も読みました。魔法学園に入学したのも、冒険者になるためです。お父様が主席合格すれば旅に出してくれると言ったから!」
俺は正直驚いていた。
こんなにも人に夢を語るような方ではないと思っていたからだ。
それと同時にあることを思った。
この少女は、一体どんな人物に成長するのだろうと。
俺は昔から彼女を見守っていた。だから、どんなに血の滲むような努力をしたのか。
普段は笑顔で過ごしてます。陰では悔しくて泣いていたことも。
自分の不幸体質にも負けず、懸命に生きる彼女の姿1番見てきたのかもしれない。
自分の夢物語を語る彼女に焚き付けられてしまった。
強く思ってしまった。そんな彼女が過ごす冒険譚を1番近くで見たいと。
「冒険は危険がつきもの、だから私のことを最も理解してくださってるあなたにすぐそばで支えて欲しいのです」
ティアリス王女の目は輝いていた。
「だから、お願いします。私とパーティを組んでください」
気づけば俺は頷いていた。
彼女に流されるように、了承させられてしまった。
まぁ、了承しても今回の報告を受けた後の判断によるものだ。
俺の犯した失態は変わらない。
その後……俺はティアリス王女に学生証を提示するように言われた。
一瞬戸惑うも……彼女に微笑みに恐怖を感じたので従った。
怖いんだよ。断ろうとすると手に魔力を纏わせて脅してくるんだ。
どこの狩人だよ。
一応パーティのことを了承したけど、そう上手くいかないだろう。
ティアリス王女を危険に巻き込んだこと事実は残る。
一応事実を全て報告する。
そう簡単に通ることはないと思うが。
一応近況も報告の必要があるので、何時にどんな方法で守っていたかも細かく書いて提出した。
ティアリス王女も今までの経緯を全て説明するらしい。直接国王様に直談判するって言っていたが、上手くいくのだろうか?
いや、無理だな。
国王様が許すわけがない。
……だが、帰ってきたら手紙はーー。
「えぇ……」
困惑する内容だった。
「なんだよ……これ」
【クロード=スティッギー。
貴殿の賢明の判断は最良だった。
ただ、娘を危険に晒した事実は変わらない。一度処罰を検討したが、原因は過酷な任務体制によるものと判断した。
充分な休息を確保せず、貴殿の優秀さに甘え配慮に欠けていた此方が原因だ。
貴殿に任せれば安心できると、過度な信頼をのせてしまった。
人間誰しも失敗はする、もっと早く気づくべきであった。
検討の結果、任務内容の変更を命ずる。
貴殿には引き続きティアリス=ハルバトスの護衛を任せる。
今後は寝食を共に過ごし近くで守るように。
PS
ティアリスに手を出したら……わかるな?簡単に死ねると思うなよ?】
……あの、意味わかりません。
手紙を読んだ感想はその一言だった。
物騒すぎないか?
俺の送った手紙にはこう書かれる内容はなかったはずだった。
色々疑問に残るが、とりあえず命令通りに行動しようと思う。
だが、一つ拒否したいことがある。
同棲はまずいって。
「これからよろしくお願いしますね。クロード様」
「あの、一部拒否権は」
「ありません」
「いや、だって一緒の部屋に住むのはダメだと」
「問題ありません。だってこれでクロード様は十分な休息が取れあの時のようなミスは起きないでしょう?私の身の安全もより保証されます……これ以上に理由は要りますか?」
あの時、姿をくらませようと失敗だったのかもしれない。
今冷静に思えば、俺は初めて失敗というものをした。
大きすぎるショックと疲労で冷静な判断ができていなかったのかもしれない。
俺の後先考えない行動でティアリス王女は何か目覚めてしまったのかもしれない。
ティアリス王女は俺を必要以上に執着する。
「わかりました。ティアリス王女」
「あと、私のことはティアリスでいいですよ。敬称も不要です」
「いや、流石に……いえ、わかりま……わかった。よろしくティアリス」
「はい!クロードさん」
本当に無言で微笑むのやめてほしい。
かくして俺とティアリスはパーティ兼ルームメイトとなった。
まぁ、この方が俺としては安心なので、結果的に良かったのでは、と結論づけた。
史実にはないが、ハルバトス家とスティッギー家の始まりの祖先は良きコンビだった語り継がれている。
ティアリスとクロード、古来より因縁のある両家の二人はこれから試練を迎えることになる。
それを乗り越えられるかはまだ誰にもわからない。
この2人の出会いはこれから紡がれる冒険譚の始まりなのだから。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
これで完結になります。
こちらは連載版候補になります。
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