第8話「2つの壊滅」
戦況は酷いものだった。土地勘のあるアリーア軍と数で押す王国軍、どちらも多くの兵が死んだ。
アリーア軍にて、彼女は亡き父の長老にかわり部族の長を務めることになる。
「アリーシャ!長老は…?!」
「父さんは死んだ!王子にやられた!」
「くそっ!あいつら俺達への慈悲は無いのかよ!!」
「私が王子を殺す!その為に皆にも手伝ってほしい。」
「もちろんだ!とことんやってやる!!」
「進むしかない!」
「あいつらに一泡ふかせてやるんだ!!」
兵士達の士気は上がっていた。王子達への憎しみは兵士達の力になった。
「子供達だけでも逃がせないかね?」
1人の母がそういった。
「何言ってんだ!子供も大人も関係ない!あいつらは俺達部族を皆殺しにする!」
「子供も戦うべきだ!」
「そんな……」
それを聞いて肩を落とす子供の母にアリーシャが言った。
「子供は逃がす!心配はいらない!」
「アリーシャ!でも……どこに」
「こう言う時の為に同盟を結んでる隣りの部族へと支援を求める!」
アリーシャは鹿に乗って走った。そして隣の部族の領地へと赴く。だが、そこで聞かされたのは諦めろと言う事だった。自分達の部族も巻き込まれて死ぬのはごめんだそうだ。アリーシャは1人絶望的な気持ちで帰る。
アリーシャがいない間にアリーア軍は2つに別れていた。このまま戦うと言う兵士と命乞いをすると言う2つに。
そんな中、レェーネは軍を動かす。中央の兵士で陽動し、両端から土地をいかして挟み込むといったものだった。作戦は成功。部族は1部壊滅した。それをみて王子は嘆いた。しかし、部族も殺られてばかりではない。アリーアも土地勘を利用し、陽動し、兵士達を挟み込み王子レェーネの部隊を孤立させた。その結果、レェーネの部隊は壊滅した。
「レェーネの部隊が壊滅?!」
「ああ、私は動けない、頼めるか?!」
ウィルはフィルシュの問いなど聞かずにすぐにレェーネの元へと走った。そこで見たのは兵士の死体の上に立つレェーネだった。
「れ、」
ギランッと眼光が光ったと思うと首元に剣があてがわれる。
「!?」
「…なんだ、お前か。」
王子は剣をおろす。
「ぶ、無事だったんだね。よかった」
「無事?だと?」
「へ?」
「俺だけが生き残った!無事なものか!!兵の命を預かる身でありながら、俺はっ!」
「王子、仕方ない事も…」
悔しがるレェーネをウィルは優しく見守るしかなかった。そこに弓矢が放たれる。ウィルはそれを叩き落としてナイフでその兵を殺した。
「帰ろう。レェーネ。ここは危険だよ!」
「っ!わかった!」
レェーネは兵士達の屍を残して拠点へと帰る。その目には光はなく、戦争の惨さを知るのだった。雨が降り始めていた。