第97話 パティーンの言葉
「私がスマター様から命ぜられたのは『聖騎士ではなく、ブブキを始末せよ』との事だった。何故かは分からない。
『我の最大の障害になる』とも言っていた。」
ジンタンに敗れた魔将軍パサージュは、俺達に事の顛末を話してくれる。
「それだけ?!」
セシアは詰め寄る。
当の本人ブブキは押し黙る。
俺は思う。何故聖騎士を差置いてブブキを魔王軍は狙ったのか?
ハサンは確信した!
「これか!パティーンが言っていたのは!」
一斉に皆が振り向く。
焚き火を囲いながら皆に思い出すように話しかける。
あれは、冒険当初、魔将軍ザンに倒された頃の話。
「あの時に、とっても不思議な体験をしたんだ……」
俺は皆に、その時の夢のような微睡みのような空間にいた体験を話して聞かせた。
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俺は又死んだ。
異世界に召喚され、冒険早々、俺は死んだ。
一度目は私鉄で車両にいた暴漢に刺された。
二度目は魔将軍ザンとかいう脳筋野郎に殺られた。
異世界マーラに召喚されたとて、
只のおっさんが何者にもなれるわきゃ無いよな!
はい、はい。
オシマイ、オシマイ。
霊体の状態で、フワフワと漂う。
日本で生まれて唐突に電車内で刺されて、
気付いたら異世界にいた。
召喚されたのだ。
召喚者はセシア。ハナナガ族の娘。
俺は聖騎士として、魔王スマターを倒せと言われた。
戸惑いながらも旅に出た。
そして最初の町に出向こうとして、
その矢先に敵の将軍に殺されたのだ。
それも、圧倒的な力の差で。
異世界の人生も終わりか。
さあ!あの世へ連れて行ってくれ!
ふと見ると、目の前に
白髪の老人が、ニコニコしながらこちらを見ている。
「おー。これが噂に聞くお迎えと言う事か。あなたは御先祖様ですか?」
俺はなるたけ丁重に質問する。
『我が名はパティーン。
お前は死んでない。死ねないんだ』
老人は開口一番に話しかけてくる。
死ねない?
体がバラバラにされたんですぜ?
死んでるでしょ?
どうしたって。
俺は違和感を覚えた。
口にしてないのに通じてる。
『お前の魂は囚われている。
天にはいけないのだ。
これが呪いだ』
翁も口元は動いていない。
念話の一種?
思った事が分かり、思ったことが通じる。
爺さんは話してくれた。
かつて高名な賢者だったこと。
魔王スマターとも戦ったことがあること。
憎しみだけでは魔王スマターには勝てない。力を一つにすること。
それが『ゴッドハサン』だと。
『これから先にオークキングがお前の前に現れるだろう。其の者はお前と同じ異世界転移者であり、魔王と邪神を倒す重要な男だ。其の者と力を合わせるが良い……』
そして、老人は消えてゆく。
霊剣:三鈷剣に『トホカミエミタメ』を唱えれば、何度でも肉体は復活すると言い残し……。
でも、セシアは生身の体で、
俺は霊体。
言葉が通じる訳が無い……。
いや、聖騎士と召喚士は
通じるかもしれない。
しかも夢の中なら。
夢の中なら、相手に語りかけれるかもしれない。
セシア、待っててくれ。
俺達の旅はまだ終わらない。
俺は寝ているセシアに夢の中で囁いた。
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「こうして俺は三鈷剣から復活出来たんだよ。でも、まさか洞窟の湖からの復活だったから死ぬかと思ったけどな!」
そしてブブキの方を改めて向く。
「パティーンは言っていた。
アヤカシの身体を持ちながら聖騎士の心を持つ男。それがお前だ。ブブキ。」
ブブキは何故か涙を流していた。
人間の頃の記憶は無い。
しかし、どういう訳か、涙が止まらない。
「お前こそが、このマーラのアヤカシと聖騎士と召喚士の呪いを断ち切る、悲しみの連鎖を断ち切る楔なのだ」
そしてパサージュに問う。
「さあ、魔王の居場所を教えてくれ」
いよいよ最終決戦だ。
さあ、神回です。
まさか魔将軍ザンとの最初の闘いが
予定調和だったとも言える神回




