第93話 夜襲
オークキングの館で、
ブブキは部下からの報告を仰いでいる。
「ブブキ様。聖騎士が動いたようです」
「何?聖騎士だと?」
アヤカシが村人に紛れているだけで、
アヤカシが村のリーダーというだけで、
聖騎士まで俺達を根絶やしにしようというのか!
篝火に照らされる中、腹心の幽鬼ジョージ、村の長老パジャマ、兵長のガジャリ、そして婆さんと酒を酌み交わしながら談義する。
「ブブキ様。聖騎士が襲ってきたら我々に勝機はあるんですか?」
パジャマが問うてくる。
最もな質問であり愚問だ。
俺の最大攻撃と、幽鬼愚連隊と、
魔法部隊、剣撃隊の全勢力で攻撃しても聖騎士は倒せまい。
しかし、『聖騎士』のワードに少しだけ懐かしさを覚える。
何故だろう。
「村は大丈夫。そしてお前も生き残るよ。聖騎士に会え。そして話せ。」
婆さんはニヤリと笑いながら、
注げよさっさと!と椀を出してくる。
「婆さん、毎度あんたの言葉に救われる。さあ、皆飲もう」
本当に、この婆さんは何が見えてるのやら。
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数日経過して、ジンタンとフィットの斥候隊が
チギリの街に帰還した。
「ハサン様!報告です。」
「帰ったよ!ハサン様!」
聴くとブブキの村は
オークキングが支配してるのではなく、
オークキングがリーダーシップを取りながら、
【人間とアヤカシが共存する村】
だという事だった。
何という事。理想の村だ。
アヤカシは分担して、
力仕事はオーク系のアヤカシが。
夜の見回りは幽鬼系のアヤカシが。
雑務や村の運営も協力して、
行っているらしい。
当時はある果てた大地の村だったようだが、ブブキが統率してからは、開墾を重点に行い、村の警備の強化、特産品等の開発により潤っているようである。
「会ってみよう。ブブキに。
本当に討伐が必要かも。」
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永らく滞在していたチギリの街を発つ。
ここから、ブブキの村まで約五里程である。
※一里=約4キロ
サシマ国周辺はアヤカシのレベルが高い。
デーモン系のアヤカシや、死霊系アヤカシ、魔獣系アヤカシの強さが上がっている。
特に、魔獣系アヤカシの中でも
「キマイラ」と「グリフィン」はヤバイ。
【キマイラ】はドロゴンクエステトラみたいな鳥型の魔物ではなく、
ライオンの頭と山羊の頭、蛇の尻尾を持つ強敵だ。
【グリフィン】は巨大な鳥。
しかし胴体は巨大なライオンの胴。
どちらも合成アヤカシだ。
こんな奴らがウロウロしてるなら、
魔王スマターの根城はどうやら近いんじゃないかと、うっすら感じるのだ。
久し振りの野営。
今日はグリフィンの肉と、キマイラの肉。
昔メリーに聞かれたんだけど、
「ハサン様が倒すと浄化されますよね。
どうやって肉の部位を取れるんですか?」
ってね。
それは、倒した瞬間に「思う」んだ。
恵みをいただきたい。
お前達の死を無駄にしないからと。
そうして天に登る瞬間のアヤカシが、
了承をいただけたら肉が残るんだよと。
グリフィン肉を炙り、塩コショウで食べる。
旨い〜!!!
鶏肉や!純粋の!
逆にキマイラの肉は部位が硬くて、
しかも臭みがあり、美味しくない。
ジンタンが手製のお酒で下処理してくれる。
暫く漬け込んでいるとお肉が柔らかくなるんだとか。
近くにある山菜や、キノコを取ってきて
お酒で漬け込んだキマイラの肉を味噌で煮込んでいく。
「はい!完全!ジンタン流キマイラ味噌煮込みで〜す!」
いつの間に!味噌なんて異界マーラには無いのに俺が一度味噌の事を教えてあげたら、直ぐに実践して作れるようになるとは。
天才だな……。キラッ!
木のお椀でキマイラの味噌煮込みを頬張る。
ありゃ〜!間違いない!
やっぱ皆で食べる野営は楽しいな!
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さあ、夜もすっかり暮れてきた。
今日はメイとジンタンが歩哨。
2時間で交代。
何を話したのだろうか?
二人は想い合ってるんだけど、
進展したのかな?
次は俺とセシア。
歩哨思い出すな。
自衛官の頃。
夜空に星が煌めいて、
あの頃は「何してんだろう」と、
問いかけてた気がする。
「ハサン。魔王スマターを倒したらどうするの?」
セシアが聞いてくる。
「魔王スマターを倒したら……邪神アドヴァンを倒す。」
「アドヴァンを倒したら?」
アドヴァンを倒したら……。
考えても無かったな。
「そうだなー。そうしたらマーラでのんびり暮らそうか」
「ハサン!敵!」
え?!敵?
その流れだと私も一緒にみたいな流れじゃないの?!
「敵襲!!各自陣形を取れ!」
暗闇からアヤカシが姿を現す。
キマイラの肉も部位によって、
美味しいのかもしれないが、
本作では硬いので煮込まないと食べれない
って仕様にしてます。




