第72話 大司祭の罠
病院の待合室で並んでいる。
思い出すのは、長男が生まれた時。
いよいよ俺も親父か、
そう思ったものだ。
女は子供を宿した瞬間から母になる。
男は子供が大きくなるにつれ、父親にして貰う。
産婦人科はまだしも、
病院の待合室ときたら、
負のオーラが出まくっていると感じる。
生気が無く窪んだ目、やつれた顔に
ぼへーっと口を開けて涎を垂らした
人の何て多いことか。
偏見?
否、私にはそう見えた。
矢張り【今】に生きていない気がした。
この病魔の村ラートリーも、
かつては美しい自然豊かな村だった。
ところが、今や生きてるのか死んでるのか、一点を見つめ虚ろな人々が
そこら中にへたり込んでいる。
そして、すべからく病魔に侵された者達は
黒い斑点が出来ていたのである。
ハサンは一軒、一軒、一人、一人
『トホカミエミタメ』で浄化する。
直ぐ様メイとセシアがヒールの呪文を
唱えて体力を回復させるのであった。
お、おぉぉぉぉ……
聖騎士様!
あちこちで歓喜の声が上がる。
ハサンは思う。
マスタードの臭い。
アヤカシはマスタードの臭いが何故かするのだ。
そして、この村からマスタードの臭いが消えない。
おかしい。間違いなくアヤカシは、
この村にいる。
誰だ?どいつだ?
前方から白い修道衣を着た若い女性が歩いてくる。
普通マンガやゲームだと、
この女がアヤカシっぽいが?
しかし美人だな。
年の頃25前後のスラッとした切れ長美人。
間違いなくアヤカシだな。
なーんて視姦しながら、下衆い事を思っているとその女は話しかけてきた。
「聖騎士様。ありがとうございます。
是非大司祭がお会いしたいと申してます」
大司祭が黒幕か。
「分かりました。大司祭にお会いしましょう。」
マスタードの臭いが鼻につく。
決まりか?
まだだ。様子を見よう。
その時、セシアが念話で話しかけてくる。
※セシアの心の声
「ねえ?ハサン……。怪しくない?」
※ハサンの心の声
「いや、どう考えても大司祭がクロだろ。でも様子を見よう。まだだ。見極めよう」
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大司祭は穏やかそうな恰幅の良い
50代くらいのオバさんだった。(失礼)
47歳の私から言わせれば50代の方は同年代なんだけど美魔女って感じじゃなく、
オバさんって感じだった。
「聖騎士ハサンです。」
俺は名乗ると、大司祭はにこやかに話しかけてきた。
「聖騎士様、ありがとうございます。
聖騎士様のご加護で、この村は救われました。幾らお礼を申し上げても、
申し上げ足りません」
いやいや、聖騎士として当たり前ですよ、と謙遜しつつ『冷ややかに』相手の出方を見る。
「聖騎士様の、その倶利伽羅剣を是非お見せ頂けないでしょうか」
大司祭は倶利伽羅剣を見せて下さいとせがんで来た。
直感が教えてくれる。
こいつだ。
大司祭がアヤカシ。
普通の人々が倶利伽羅剣の名前を知るはずが無い。
より一層マスタードの臭いが強まる。
違ったらどうする?
その時は土下座して謝ろう。
俺はカマをかけることにした。
それに倶利伽羅剣は教えてくれる。
この大司祭がアヤカシか否かを。
俺は倶利伽羅剣を大司祭に向ける。
「倶利伽羅剣よ。倶利伽羅龍王よ、
教え給え!彼の者の正体を!」
柄にある倶利伽羅龍王の目が光る。
「此奴の正体は……『アヤカシ』だ!斬るが良い。浄化せよ!ハサン!」
矢張り!アヤカシか!
「正体見たぞ!貴様はアヤカシだ!
ノウマクサーマンダー、バーサラダーセンダー、マーカロシャーナー、ソワタヤ、ウンタラターカンマン!!
出神せよ!降三世明王大降臨!」
印を瞬時に組むと瞬く間に膨大な光が溢れる!
先の美人の女修道女も、
アヤカシの『ガーゴイル』に姿を変える。
大司祭は一際大きいガーゴイルだった。
降三世明王の全身から赤白の炎のソウルパワーが揺らめく。
ハァァァァァァァ!!!
『倶利伽羅剣!!』
倶利伽羅剣を手に添え、剣先に向けてなぞる。
倶利伽羅剣はソウルパワーで青く光る。
ガーゴイルは、このソウルパワーの波動を浴びるだけで浄化されていく。
『ハサン!クラァァァッッッシュ!』
大幅に増幅されたソウルパワーを練り込んだ渾身の一撃を大司祭のガーゴイルにたたきこむ!
ガーゴイルは顔面に剣圧を直撃し、
振り抜いた剣撃は、そのまま大聖堂ごと
木っ端微塵にぶっ壊す。
「ペ、ペニョーー!」
不思議な断末魔を上げ、大型ガーゴイルは金色の粒子に変えて空に浄化していった。
終わった。
ん?でもマスタード臭は治まらない?
「ハサン!!」
セシアが後ろから叫ぶ!
無防備な俺は後ろから
大型の剣を刺さ貫かれる。
背中から心臓を一気に刺され
口からは大量の血を吐く!
ぐはっ!い、痛ぇ!
「クククッガーゴイルは撒き餌よ!
油断したな!聖騎士!」
ふ、不覚。
俺は化身したまま倒れ込む。
敵、敵の正体は?!
そして意識を失った。
この大司祭が黒幕ではなく、
後ろから黒幕が現れるのは
息子の案です。
なかなかいい着眼だと思います




