第65話 命の詩
5,000もの大群を一気に
倶利伽羅剣で蹴散らしてしまった。
沢山の魂を天に送った。
でも、これで良かった。
街に被害が出なかったのも上々だ。
ハサンは思う。
しかし、自らの内在神の力がこれほどとは思わなかった。
明王に化身しているとはいえ、
戦術核と同じくらいの破壊力だ。
一瞬血飛沫が舞っても金色の光で浄化&昇天するのでグロさは抑えられるけど、
とんでもない力だよ、と改めて思う。
つまり、力の使い方で
神にも仏にもなれる。
邪神にもなれるという事なのだ。
『力を持つと言う事の意味』か。
しかし、この力を行使した事で簡単にはハサンに対して攻撃を仕掛ける勢力は減っただろう。
噂は真実以上に、この世界を回るだろう。
辺りには花が咲き乱れ、
そして草木が芽吹いている。
半径500メートル全てを無に帰す威力。
ハサンはいつしか大きな力を得ていた。
爽快感?
いや、そんなものは無いよ。
寧ろ、諸行無常を感じる。
虚しさとか儚さとも違う。
アヤカシや魔王、邪神を抜きにしても
人の業というのを素直に感じる。
先ずは魔王スマターに会うこと。
我らの魂は一つ。
聖騎士の力を集結しなければ、
邪神には勝てないだろう。
魔王スマターはどこか?
そして邪神アドヴァンの本神はどこか?
手がかりが無い。
皆の元に帰ろう。
一旦体勢を立て直そう。
再びハサンは大空へ飛翔していく。
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「陛下!5000の兵士!討死に!」
ボロボロの姿で不眠不休で帰ってきた兵士長。
ハサンの一撃を免れた数少ない生き残り。
シッポリ国王バルクに
騎兵団全滅の報を知らせると、
口から泡を吐いて、
前のめりに倒れ動かなくなった。
「討死に!我が精鋭の第一騎兵団が……。
バ、バカな。」
唖然とする国王。
バルク国王は、ガックリと肩を落とした。
窓際にある花瓶のコスモスが
茎ごと折れた。
「ぐっ!!(不吉な)」
わなわなと震えるバルク王だった。
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コバルトの空、群青の海、
銀色の雲、金の日差し、
この世界は美しい。
幾多の人々が『いま』を生きている。
この世界の人々の幸せを守りたい。
この人々の優しさを守りたい。
いつしか、俺はこのマーラが
好きになっていた。
セシアが住む、ジンタンが住む、
メイが住む、このマーラを、
この温かい世界を守りたい。
セシア達が待つパレートの街へ向かってハサンは飛んでいく。
シトシトと雨が降り注ぐ。
やがて虹が出てくる。
虹の輝き、雨のメロディ……。
「ここにも俺の居場所はある」
ハサンの心は満たされていた。
皆の待つ街へ向かって
ひたすら飛び続けるハサンだった。
今を生きましょう!




