○が意識の底から語りかけると、憑依者は○の声で話す
ベッドサイドに置かれた水差しからコップに水を入れ、ゴクッ、ゴクゴクと音を立てて水を飲み、口元から垂れた水を手の甲で拭い、ぷはーっと息を吐いた。
『ちょっと、あなたお行儀が悪くてよ。わたくしの身体でそんな下品な事なさらないで!』
「あ、ごめんごめん。すっごくのど渇いてたから、つい」
『それで、あなたもう大丈夫かしら?』
「大丈夫って、何が?」
『あの、とても嘆いてらしたでしょ、だから』
「あ、そう、そうよ! 何で私、過去に戻りたかっただけなのに、異世界転生とかしてんの?」
『過去に戻りたかった、だけって。そんな事を望んだところで、出来ないでしょう?』
「じゃあ、なんで私異世界に居るの? 異世界を希望して転生してく人も居るのに? 望んだら出来るから、でしょ?」
○には、何がなんだかわからない。
「今、異世界転生するのがブームなんだけどさ、タイムリープってわかる? 未来とか過去に行けるんだけど、転生の派生みたいな?」
『よくわからないけれど、そのタイム何とかがどうかして?』
○の身体に二度目に憑依したジョシコーセーが言った言葉を覚えているだろうか?
異世界転生成功
どうやら異世界の者たちの間で、異世界転生するのが流行っているらしい。
「私がしたかったのはタイムリープで、異世界転生じゃなかったのね? それはわかる?」
『ええ、意味はわからないけれど、望んでいたこととは違う結果になっていたということでよろしくて?』
「そう、それ。これまでの知識を持ったままやり直したかったのに、異世界転生なんて。全然知識も無いところでゼロからなんて、攻略本無しで知らないゲームさせられる様なもんでしょ?」
『そういえばオトメゲー好きなあの子は「攻略本でスチル回収!」なんて言っていたわね。その後に憑依してたゲーマーとかいう属性の者が「攻略本? 知る楽しみ半減するからいらんしー」とも言っていたけれど。攻略本というのはそんなに必要なものなの?』
「ていうか、転生って事は、私もう死んじゃってるから、あそこには戻れないし。絶望的過ぎて泣くしかないじゃない!」
『ここまで絶望して嘆いたのはあなたが久々よ。だけど、あなたの世界で亡くなっているなら、それはとても辛い事だわね』
「攻略本の必要性がわからないかぁ。って、ちょっと待って? オトメゲー好きにゲーマーって、私以外にもあなたに転生した人がいるってこと?」
『ええ、まあ。そうね。あなたが何人目かもう数えてもいないけれど』
「え? なにそれ、すごくない? 聞かせて、聞かせて!」
先程まで意図せず起こった異世界転生を嘆いていたはずの憑依者は、○の話に目を輝かせていた。