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精霊馬アフターライフダービー

 8月12日深夜11時、地獄の釜の蓋が開くお盆前日、刑罰規律を重んじる鬼たちにはある賭け事が許される。それは

「第1400回盂蘭盆杯精霊馬レースの開会を宣言します!」

現世で言う競馬、それを精霊馬でやるのだ。

「解説の赤鬼です」

「青鬼です」

 二人の手にはしっかり馬券が握られている。

「皆さんちゃんと馬券は買いましたかー」

 多くの馬券を持った手が伸び、会場の空気が湧き上がる。

「準備はバッチリですね!それではレースの説明をいたします。亡者たちが乗った精霊馬が地獄の底から始まり現世への関所にどれだけ早く着くか当てるというとてもシンプルなものです」

 赤鬼が隣で意地悪そうに笑う。

「しかし、毎年のことながら地獄の底の厳しい環境に当てられて萎びる馬も多くいます。たまにですが、走る前からもうレースは終わっているそんなこともありますがどうか気を落とさずに!来年もあります!」

 

会場のゲートが開く。大量の馬とそれに乗る亡者たちがスタート地点に進む。きゅうりの匂いがあたりに充満する。少し野菜が腐ったような匂いがするのはご愛嬌だ。

「さあ、騎手と馬の入場です。青鬼さん今回はどの馬がいいとかありますか」

「そうですね。駿馬の鈴木家はご子孫の方がうっかり馬に使う野菜を夏の晩ごはんにして食べてしまったから不参加のようですね」

そう言うと青鬼は会場を見回し、あっと言ったあとその方を指差した。そこには爪楊枝の脚の長さが不揃いでグリンとねじれたきゅうりがゆっくり歩いていた。

 赤鬼は目録に目を通してマイクに向かっていう。

「えーあれは田中家の馬ですね。それで今年初盆のヨシノリさんが騎手を努めます。青鬼さんどうして」

「あれ、お孫さんが育てていたきゅうりらしくて、お孫さんの希望で市販のきゅうりではなくあちらのきゅうりに乗られることになったそうです」

「お! わざわざおじいちゃんのために!偉いな!となると相当早くなるのでは?」

「そうですね。精霊馬は子孫が祖先を思う気持ちが強ければそれだけ早く走ります。だからいい馬じゃないかなと」

会場の注目が田中家の馬に行きかけた時、ゲートの方を見るとすごいゴウゴウと音が聞こえてくる。

それを聞いた赤鬼は目をおもしろそうにきらめかせたあとマイクをとる。

「えー、会場の皆さん、亡者の皆さん、出来る限りゲートの側から離れてください。でないと吹き飛ばされます」

ものの3秒後、ゲートからすごい勢いで風と共にその馬とも呼び辛い精霊馬たちが突入してきた。ゲート近くに席をとっていた鬼たち、亡者、精霊馬は風に巻き上げられて空を舞う。

 その馬は生き物の馬の形を模していなかった。

 バイクに自動車、飛行機というもう素材がきゅうりだったなんでもいい。そのゆるゆるな決まりを守って作られた変わり種精霊馬がきた。最後のジャンボジェット機で終わりかと思った時、それよりも大きな巨大なロボット(きゅうり製)が明らかにゲートの大きさを無視して入ってきた。

「あの、あれですよね」

「ああ、あのあれだ。アニメ始まってからキャラ物の精霊馬もあるからな」

「あのロボット動かしているのはまたしても今年初盆の船場シンジさん。なんでも、祖先の中で一番若くてちょっとアニメを知っていたから乗らされたそうです。先に船場シンジさんから言伝が来ています。えー」

(誰もワシに賭けるな。この精霊馬を動かすのは誰であれちょっとでも動かし方を知っているやつでないと動かない。とんでもない代物です。他の親族には出来っこないよ。今年の帰省は歩きで行こうと言いました。しかし、あんたロボットアニメよく見ていただろうと言われパイロットになりました。孫の婿よ聞こえるなら聞いてくれ、ワシが見てたの別アニメ! あときゅうり苦手だ)

「だそうです」

巨大ロボットの足元で、天竺鼠車たちが猫なバスたちに追いかけられて騎手を放って走り回る騒動が起きたがどうにか沈めて、最期の一団が入ってきた。


皆それぞれ、きゅうり以外を本体にした精霊馬だ。もはやそのゆるゆるの決まりすら破るものが来た。

「時代も多様性と言いますがもはや、食べ物に爪楊枝で四本足にして盆に供えられたらもうそれは馬なのです」

ブロッコリーやにんじん、カボチャもあったが、カリカリのベーコンがぐるぐる巻きにされた焼きトマトに爪楊枝を刺してできたぜったい料理として作られたような馬がチーズを垂らし、バーベキューの串に足を生やした馬が香ばしい香りを漂わせたとき、会場全員が生唾を飲んだ。

さて、皆それぞれスタート地点につく。

青鬼は時計を見ながらマイクを持つ。赤鬼は開始を知らせる大鐘を鳴らす丸太につながる綱を持っている。

「さあ、13日まであと少しとなりました!それでは皆さんカウントダウンお願いします」

「十!九!八!」

 会場の熱気がピークになり、みんな己が空気に溶けたような気になる。

「七!六!五!」

 騎手たちは手に汗と手綱もしくはハンドルを握る。

「四!三!二!」

 赤鬼が綱を引っ張り、丸太が一緒に下がる。

「一!零!」

 鐘が鳴り、馬たちはいっせいに走り出す!こうして今年も始まった盂蘭盆杯、今年は一体どうなることやら。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 様々な馬に乗り、現世へ行く亡者たち。 もう馬とは言えない! トマトって! それでもそれに乗って行こうとする人(亡者)たちが少し不憫……。 とても面白かったです!
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