配信内容〔能力確認〕
・・・ふぅ、やはり初配信は緊張したなぁ。
配信から2日たった今でも、思い出す度に体が震えてくる。
魔王としての謁見やら何やらで、大勢の目に止まることは前世の方が多かったんだけどなぁ・・・これも俺の魂と融合した結果か。
・・・あ、そうそう。勿論百合発言をした後、マネージャーに叱られてしまった。
「輪廻さん!?なにやっちゃってるんですか!?なんであんな発言をしたんですか!?馬鹿なの?アホなの?炎上なの!?」
素直に謝った。
だって目が死んでんだもん。
クール系な筈のマネージャーのキャラがブレブレだったもん。
ちゃんと反省したね。流石にアレはネタにしてもやり過ぎたって・・・まぁそれはともかく、視聴者の方々も一万人を越えたし、チャンネル登録者も12,461人になった。
因みに同期の初配信は、俺の初配信は一体なんだったのかと疑問に思うほど円滑に終わった。
良くも悪くも、話題になってしまったのは俺だけなのである。
ツブヤイター等はもう大荒れらしい。
・・・いっそ私美少女大好き!って感じの路線でやっていくか?
というか、もうそれしかないな。うん、我ながら自業自得だ。
───いや、確かに俺は女性が好きだし、男に抱かれるとか考えたくもないけど・・・別に結婚とか付き合うとかっていうのは興味ないんだよなぁ。
食欲、性欲、睡眠欲の三大欲求は魔王になってからとってないし・・・いや、たまーにご飯を食べたりするくらいか?
それくらいだろう。
そりゃ前世の秘書も呆れるわ。俺本当に生き物やめてんもん。
てか、秘書───どんな名前だったっけか?多分まだ身体が馴染みきっていないから記憶の混濁があるだけだと思うんだが。
───まぁ、今はいいか。
「しっかし、今度から配信中に関しては不用意な発言はしないようにしないとな・・・またマネージャーさんのあの冷たい瞳を浴びたくないし。VTuberを続けていく以上、配慮は忘れないように、だな」
今は記憶が混濁していて、身体が馴染んでいないと思うが、もし完全に俺の体と俺の体が融合したら、俺でさえ何が起こるかわからない。
例えば、魔王の魔法が暴発して犠牲者が出るかもしれない。もしかすれば、スキルを誤って使ってしまって、大災害を引き起こしてしまうかもしれない。
そう考えたら、悔やんでも悔やみきれないんだ。
だから取り敢えず今日は、自分の能力の再確認をしたい。
前世の魔王の頃の記憶で、ある程度威力や効果はわかっているのだが、もしかしたら俺と融合結果、威力の変動が起きているかもしれないのだ。
───いや、間違いなく威力は変わっているだろうな。
恐らく、ほぼほぼ威力は上がっていると思うから、今日はその上がり幅を把握しておきたい。
「ふぅ・・・さぁ、発動しろ」
───『時空断絶ノ牢獄──反転』
ぐるぐると回る幾何学模様に、紫色の障壁のようなモノが俺の半径数メートル範囲を囲う。六角形が隙間なく紫色の障壁として並べられ、絶対の攻撃を無効化する魔法が展開されるのだ。
ふむ、どうやら問題なく発動したようだな。
名前はめちゃくちゃカッコいいが、その効果は出鱈目だ。
時の流れを塞き止め、あらゆる攻撃を中和し、外に出ようとするものなら、対象の存在を拒絶───即死させてしまうという危険な代物。
俺が魔王として君臨する前にかなりお世話になった技だ。
今回はそれを反転させ、即死の部分を書き換え結界として代用している。
外に出ようとするモノの存在を拒絶するのだから、反転すれば中に入ろうとする存在を拒絶させることが出来る。
あらゆる・・・というには流石に限度はあるが、ほとんどの攻撃を無力化出来る障壁にはなるだろう。
───中二病?うっせぇわ。
「とは言え・・・強くなることは良いことだが、加減が難しくなる程かよ・・・」
俺は死んで、俺の魂を喰らい、生き延びた。
そして“魂”だけで次元の壁を越え復活した。それが俺に残っている記憶だ。
それから察するに恐らく、魂だけで次元の壁を越えようとしたことで、只でさえ強力な魂魂がより強固にかつ強力になったのだろう。
故に、スキルとは“魂の強さに依存する”ため、必然的に技の威力が格段に上がった・・・というのが俺の仮説だ。
だが、流石にこれはやりすぎじゃねぇか?
まさか威力が高くなりすぎて『時空断絶ノ牢獄───反転』の制御が難しくなるとは・・・。
障壁の強固さはやはり前世よりも格段に上だが、障壁を構成する早さで言えば、前世に一歩及ばないだろう。
まぁ、ある程度練習すれば、前世と遜色ないレベルまで練度を上げられるとは思うがな。
今回は取り敢えず、『時空断絶ノ牢獄───反転』を俺の部屋で発動させ、スキルや魔法、魔術の効果を無効化させる。
危険な魔法を試せる貴重な機会なのだ。存分に遣らせてもらおう。
───『信仰と破戒の聖地巡礼』
発動させるとともに金色に煌めく雨粒程の幾千の光が、悠々と辺りを舞う。
蝶のようにヒラヒラと飛び回ったかと思えば、今度は不規則に小刻みに飛んだり、逆に微動だにせずに静止したり、と。
まるで生きているかのように動くこの光の効果は“視界に捉えた相手の生死を選択する”というもの。
これを聞いてかなり強いと思うかもしれないが、実際の使い勝手は悪い。
発動にはいくつかの条件があって、発動させる対象が“何らか”を“神やそれに準ずるナニか”を『信仰してない場合』にしか効果を発揮しないという、使う機会があるのかわからない、前世で技の研究をしていたらいつの間にか出来てしまった技だ。
ぶっちゃけ信仰しているって言ってピンキリで詳しいことは俺でも未だに把握できていないため、暴発してしまうとかなり危険だ。
考える事が脳にないモンスター相手にはかなり効果的な技ではあるが、龍種みたいな強力なモンスター相手はそもそも弾かれてしまうのだがな。
まぁ取り敢えず、効果の確認用に魔物相手にこの技を使ってみるとしよう。
そのために一先ず魔力宝庫から魔力を練る。
実は魔物というのは存外作り出すのは簡単だ。奴らは魔力を用いて形をかたどれば、すぐに生まれてくるからだ。
魔物には二種類のタイプが存在しており、ダンジョンの魔物のように魔力で身体が構築されているタイプと、野生に存在している、生身の肉体を持ったタイプだ。
因みに魔力で構築されているタイプの魔物は、呼吸も食欲も睡眠も必要ないが、それでも『生きてはいる』のだ。
まぁでも一旦そこは置いておこう。
───『魔力装填』
魔力で豚頭鬼を型どり生成する。
「フゴ?・・・ッ!フゴフゴフゴゴゴ!!」
・・・なんだろうか、何でこんなに鼻息荒いんだ?それにその、余り見た目ことは言いたくないんだが・・・ただでさえ醜悪な顔から涎を垂れ流し、荒ぶった呼吸で俺の身体を見つめるのはやめて欲しい。
鳥肌立つから。
「うーん、何て言うか・・・み、醜いな・・・」
あとそれと、下半身で起立してるその汚い汚物を見せてこないで貰えるか?
自分で産み出しといてなんだが───か、かなり目の毒なんだが。
流石は俺の国でいつの間にかとられていた一番嫌いな生き物のアンケートで、第二位の称号を受けただけはあるな、と今さらながら思った。
試しにオークの顔を見つめてみれば───
「ブフ!ブガブガ!」
───俺の顔と体をじっくりと舐め回すように見つめた後に、興奮したように雄叫びを上げ始めた。
暫くするとオークのオークを起立させこちらに歩み寄る。
う、うへぇ・・・き、気持ち悪い・・・。
男だった前世の俺ですらこんなに気持ち悪いのに、こんな視線を女性が受けたら、あまりの気持ち悪さに叫びながら発狂するぞ・・・いや、冗談じゃなく。
・・・まぁ、もういいか。実験は済んだしな。
───『信仰と破戒の聖地巡礼』
俺がそう唱えると、歩み寄るオークの至るところに、虹色の魔力陣が纏わりつき、徐々にその体を黒く暗く蝕んでいく。
「ブ、ブゴ!?ブガブガァッ!」
どんどん体が蝕まれ、苦悶の表情を浮かべるオーク。
その表情が「信仰無きものには死と破壊をッ!」なんて言ってた勇者一行の表情と重なった。
あー、胸糞悪い。だがそれでも、勇者と似たようなオークを殺せて、少し胸の内の闇が晴れた気がした。
「結局・・・俺は憂さ晴らしをしたかっただけなのかもしれないな」
やっぱりまだまだ俺は魔王として未熟だ。
と、黒く塗り潰されたように事切れていたオークを見下ろしながら、俺はそう呟いた。
しかしやはり、効果範囲と蝕む速度が桁違いに上昇している。
・・・把握のために一応鑑定してみるか。
────『信仰と破戒の聖地巡礼』
【技の保持者が対象を一度でも視覚で捉えた事がある、また対象に“信仰”している“もの”がない場合のみ、発動可能。
・技の保持者は対象の生死を選ぶ事ができ、尚且つ、魔力抵抗が高い相手にも確率で発動する。
また『見る』ではなく、既に過去にその対象を『見ていた』場合も発動可能。
それに加え、技の保持者が対象者を実際に目で見ていなくても、電気や空気、魔力を媒介として発動する。
ただし、魔力抵抗が高い場合は、発動が阻害される可能性が高い】
「って、おい!明らかに強化されてるじゃねぇか!?」
電気や空気、魔力を媒介にってなんだよ!調整下手くそかよ!配信で万が一暴発したらどうすんだ!舎弟の皆が死じゃうじゃねぇか!
頭を抱えて地面に蹲る。
「・・・流石にこれじゃきついぞ・・・なにか、自分の能力を制限するスキルとかないのか?」
魔王になる前に馬鹿みたいに獲得したスキルの数々。
それこそまるで子供のお遊戯みたいな強力なスキルもあれば、これどこで使えるんだ?みたいな塵スキルもある。
流石に多すぎて困るから、幾つかのスキル郡に纏めてはいるんだが・・・それでもやはり多い。
だがついに、その大量のスキル達が活かされる時が来たようだ。
「ん?・・・おっ、あったあった!」
ふーむ、なになに?スキル名は『制限と抑制の腕輪”』・・・か。
それで効果は・・・お、ふむふむ、能力を制限し、感情を抑制する・・・ね。
これ以外には・・・特にないな。
見る限りデメリットも無さそうだし、発動してみるか。
───『制限と抑制の腕輪』
そう口にすると、目の前に魔法陣が現れ、俺の右腕にゆっくりと移動していく。
やがて俺の右腕に到着した魔法陣は、暫くすると光輝きだした。
そしてその光が消えた腕には、黒と灰色の混じった腕輪が嵌まっていた。
黒と灰色って・・・なんて厨二病チックなんだ・・・。
「・・・ってあれ?この腕輪、ダイヤルがあるぞ?」
腕輪を確認していると、ダイヤルのような器官が装着されているのを見つけた。
ふむふむ、成る程?
ダイヤルを回していくと、少し、ほんの少しだが体が重くなっていくように感じる。
ふーん・・・このダイヤルは、体の能力を制限する倍率を操作できるみたいだな。
───あれ?そういえば、いつの間にこんなスキル入手したんだっけか?記憶にないんだが。
こんな便利なスキル使わない訳がないし、何より完全記憶と瞬間記憶を持っている俺が、こんなスキルを覚えた記憶がないって・・・。
・・・これもやはり完全に俺と俺が融合してないからか?
だとしたら、今度検証してみる必要があるな。
「ふむ、これぐらいかな?一応、死ぬ前の“俺”の数値を記憶して、その通りに倍率を合わせ・・・たけ・・・ど・・・!?」
桁が・・・桁がエライことになっていらっしゃる!?
おかしいな・・・俺、今も全身全力のデバフも込みなんだぞ?なのに何で桁がこんなに・・・俺もう外出歩くのやめようかなぁ・・・。
ま、まぁ・・・つ、強いことはいいことだからな!(二回目)
とにかく落ち込むな俺ェッ!
────ふぅ、取り敢えず今回はこれぐらいで切り上げるとしようか・・・。
さっさと寝て、明日の配信に備えるとしよう。
あ、寝る必要がないとか言うなよ?俺は今七つの大罪の暴食と怠惰を背負ってるんだ。
ただの生物よりも、お腹は空くし、眠くなる。同じく七つの美徳の謙譲と節制で抑え込んではいるが、それでも大罪の都合上、食べなくともいい体であっても、寝なくてもいい体であっても、ある程度は食べたり寝たりしないといけないんだ。
決してグータラしたいとか、美味しいご飯が食べたいとかじゃないぞ?いいな?
「って明らかに独り言多くなったよなぁ・・・」
俺の前世では、一人でいることは当たり前だったが、俺の前世ではいつも側近達に囲まれていたし、暇さえあればちょっとしたイタズラをして、側近達にボコボコにされたり、笑いあったりがほとんどだった。
誰もいないって言うのは、俺にとってはいつもの事だし、俺にとっては初めての事だから───なんか、寂しいな。
だからだろうか?独り言が多くなったのは。
「・・・今度、アイツら側近達もこの世界に呼んでくるとしよう」
それでもし、俺が我慢できなかったら、俺と話し相手になってくれるスキルでも手に入れるよしよう。
と、また誰が拾う訳でもない独り言をまた溢し、その日は『時空断絶ノ牢獄”《クロノスフィラキ》』を後にした。
───ジジッ───対象の記憶の組成が進行中───アウトプットします───ジジッ───完了。
───
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あともう少しで百合ゾーンです(ボソッ