配信内容〔転生〕
ジリリリリッ!
自分の狭い部屋によく響くアラームの音で目が覚める。
「あーもーうるさいなぁ・・・って!?もうこんな時間なのぉ!?や、ヤバイヤバイヤバイッ!」
昨日用意していた学ランを着て、パンを口に咥えたまま足早に学校へと向かう。
家は学校からかなり近いので、かなりギリギリにならなければ遅れる心配はない。が、急がなければあいつらになんて言われるか・・・。とにかく、早く行かないと。
───
──
─
「はぁ、はぁ、はぁ・・・つ、着いたぁ。二分くらい過ぎちゃったけど、殴られるのは勘弁してほしいなぁ。忘れててくれないかなぁ・・・」
僕がこんなに焦るのは理由がある。
“アイツ”は機嫌が悪ければ直ぐに僕のことを殴るからだ。しかも、殴られたことがわからないように、服で見えないような場所を重点的に殴ってくる。
「はぁ、本当に勘弁してほしいなぁ。」
これからのことを想像して、思わずため息が溢れた───トントン。
ん?肩を叩かれた?
そう思い後ろを振り返ると。
「何が勘弁してほしいのかな、輪廻君?しかも、来いって行った時間に二分も遅れたよなぁ?」
───嗚呼、いた。
僕がこの世で一番苦手な人・・・あーあ、出来れば忘れていて欲しかったんだけど、しょうがない。
「あ、あはは・・・ごめん。二分も遅れちゃって・・・。だから、代わりになにか出来ることがあればなんでもするからさ。その・・・本当にごめん。」
アイツの前にスライディング土下座をかまし、ただひたすらに謝る。
情けないとは思うけども、今日で“おさらば”なんだ。このくらいなんとも感じない。
「おいおい・・・言い訳はいいんだよッ!!お前は二分も遅れたんだ、罰が必要だろぉ!?そうは思わないかぁ!?えぇ!?」
ニタニタと加虐に満ちた表情を浮かべ、僕に歩み寄る“アイツ”。
そして何時も通り、アイツは大きく手を振り上げ・・・僕に───
───
──
─
ひんやりとした冷たい地面で目が覚める。
「う、うーん・・・あれ?ここは・・・屋上?あ、あれ?なんでここに?」
覚めたばかりでぼんやりとした頭を無理やりフル起動し、事態の確認を行う。
「そう言えば僕殴られたんだっけ、アイツに・・・」
アイツは・・・八木 悠祐は、喧嘩っ早くて直ぐに手がでてしまう乱暴者だ。カツアゲや脅迫は日常茶飯事。何度か僕以外の人にもやっていたのを見たことがある。
今思い出せば、何故僕はアイツにイジメられてたんだろうか?単純に気に食わないのか、もしくは何か意図があるのか・・・。
まぁ、どっちにしたって関係ないか。
目の前の薄く夕暮れた紅い空が目に映る
何故アイツが僕を屋上に運んだかはわからないが、都合がいいや。
「すぅーはぁー・・・本当に綺麗な空だなぁ。ずっと見ていたいくらいだ」
アイツのことなんか、もう考えたくもない。
いや、もう考えられないか。
だって───僕は──今から───。
「こんなに綺麗な空なら、一度でもいいから何も考えずに飛んでみたいよ・・・ねぇ、母さん───僕も今からそっちに行くから」
母さんは僕が12歳の時に死んだ。交通事故だった。
僕はお父さんを知らない。そんな話も聞いてないし、聞きたくもなかった。
「待っててね」
ただ、母さんはいつも仕事に行って帰ってきては、ごめんね・・・ごめんね・・・と泣きながら僕に抱きついてきた。
わかっている。家に僕一人を置いて仕事に行くことに罪悪感を抱いていたのだろう。
母さんの方が傷付いてるのに・・・。
母さんの方が疲れてるのに・・・。
母さんの方が悲しいのに・・・。
母さんの方が・・・。
僕はここまで自分を育てて、愛を捧げてくれた母さんが大好きだった。マザコンと呼ばれても仕方ないくらいに。
だから、母さんが死んだ時は何十日と泣いていたのを、今でも鮮明に覚えている。
「だから、ごめんね?母さん。いっつも僕を守ってくれて、いっつも僕の為に頑張ってくれて。ありがとう。でも、もう疲れたよ」
独りなのがこんなに寂しいと思わなかった。
独りなのがこんなに悲しいのと思わなかった。
独りなのがこんなに空しいと思わなかった。
「僕はさ・・・独りは嫌だよ。だから、ごめんね?母さん。こんなに大事に育ててくれて、感謝してる。だけど・・・もう・・・。」
わかっている。
これは只の言い訳だ。自分がどれだけ楽に死ねるかの言い訳だ。屁理屈だ。しょうもない嘘だ。
「母さんごめん・・・だから──今から逝くよ、そっちに」
せめて生まれ変わることが出来たなら、今度は母さんみたいにかっこよくて、綺麗で、頼れる女性に成りたいな。
トンッと、手摺の上に乗り上がる。
飛び乗っただけで、まるで自分自身が大きくなったように感じる。
かなり高いし、多分即死だろう。
風が思ったよりも強くて、体が煽られ揺れる。
紅い空を見上げる。
そして、覚悟を決め・・・そのまま───。
───輪廻転生──開始───成功




