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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

呪いがとけるまで王子様は幸せな夢をみる。

作者: 真白燈

 いつも置物のように気配を消している侍女が、この時ばかりは動揺したように息を呑んでいた。彼女は数日前にわたしに仕えるようになったばかりで、前の侍女とは天と地程の優秀さを示してくれたが……さすがの彼女も、王族の突然の訪問には緊張するらしい。

「せ、聖女様」

 いかがいたしましょうか、と縋るような目で助けを請う。わたしは気にしなくていいと伝え、椅子から動こうとはしなかった。

「し、しかし……」

「やぁ、失礼するよ」

 まごまごしている間に一人の男が部屋へ入ってきた。癖のない金色の髪にエメラルドのような綺麗な緑の瞳をした青年。遠くから見ても美形だとわかる顔つきは、間近で見るとさらに迫力があり、目を奪われてしまう。侍女もぽうっとした表情で彼を見上げていた。視線に気づいた彼は困ったように微笑む。

「すまないが、少しの間席を外してもらえないだろうか」

「あっ、はい! 申し訳ありませんでした!」

 一瞬のうちに顔を羞恥で染め、足早に彼女は部屋を出て行った。その慌てぶりに彼はくすりと笑いを零し、わたしの方へその目を向けた。

「ミレイ。おはよう」

 みんなが「聖女さま」と呼ぶ中、彼だけはわたしのことを名前で呼ぶ。

「……今日の朝食も、口に合わなかっただろうか」

 国中からいろんな料理人を探してわざわざ作らせた品を、わたしはほんの少ししか口にしていない。

「いいえ、たいへん美味しかったです」

 故郷とは違う、異国の味がした。馴染みのない味付けでも、彼らが試行錯誤して、わたしの舌を満足させようと努力したことがわかる料理だった。でもすべてを食べ終わる前にスプーンとナイフをテーブルの上にわたしは置いてしまった。

「お腹が空かないので、食べる気になれないだけです」

 そう言うと、彼は痛ましそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべる。これが演技だったら、たいそう立派なもので、もし心からの同情であったとしても、たいした方だと思う。

「今度また、違うものを作らせよう」

「いいえ、もう十分ですわ」

 作らせるだけ無駄だ。空腹を訴えないこの身体は、食事をすることの楽しさをわたしから奪っていったのだから。

「……今度の侍女はどうだろうか」

「ええ、大変よくしてくれます」

 以前のようにわたしに嫌味を言わない。暴言を吐かない。腹の中は何を考えているかはわからないけれど、あからさまな敵意を向けてくることはしない。

 それだけで、ずいぶんと過ごしやすくなった。

「他に何か要望があるなら、遠慮せず言ってくれ」

 懇願するような声で彼は頼む。わたしが無理難題を押し付けても、何としてでも叶えようとするだろう。国一つ揺るがすような高価な宝石や職人泣かせのきらびやかなドレスをねだっても、彼は文句一つ言わないで用意する。

 その方が、ずっと楽だから。

 いいや、それが自分にできるせめてもの償いだと思っているから。

「わたしの願いは何もありません」

「ミレイ……」

 優しそうな顔が苦痛に歪むのを、もう何度見たことだろう。罪悪感をかつては覚えていたけれど、もういつの間にか消えてしまった。今やわたしの顔は仮面を張りつけたかのような無表情であろう。やめた侍女が不気味で魔女みたいだと言っていた。

「そういえば、近々キャサリン様とご結婚なさるようですね」

 ふと思い出したと話を変えれば、彼はわずかに目を瞠った。

「どこでそれを、」

「彼女が教えてくれたんです」

 わざわざこんな離宮まで足を運んでくれて。

『アーサー様ともうすぐ結婚しますの。聖女さまも、そろそろお一人で自立することを考えたらいかがかしら』

 彼に近づくな。彼の同情心を愛だと勘違いするな。

 扇子で口元を隠して、目だけで雄弁に訴えかけた彼女は公爵家のご令嬢で、目の前の彼の婚約者であった。幼い頃からずっと彼のことを慕っており、王妃として彼を支えてあげたいと熱のこもった口調でわたしに教えてくれた。

「彼女はわたしがあなたに近づくことが気に入らないのでしょう」

「……貴女が私に近づいているのではない。私が貴女に会いに来ているのだ」

 そうだ。その通りだ。

「ではもう、ここへは来ないで下さい」

 きっぱりと告げれば、彼の瞳が揺れる。

「ミレイ。けれど私は、」

「殿下には、わたしの願いを叶えることはできません」

 彼だけではない。この国に、わたしの願いを本気で叶えようとする者はいない。

「わたしが元の世界に帰れば、この国は滅びるんですもの」


 アーサーたちの住む国には魔物がいた。人間よりもはるかに強く、禍々しい瘴気を身体に纏うもの。それらは獣や竜と呼ばれる姿へ形を変えて、森の奥深くでひっそりと暮らしていた。こちらから害を為さなければ、視界に入ろうとしなければ、彼らはめったに人を襲うことはしない。人間と魔物は互いの住処の境界線を決めて、確かに共存できていたのだ。

 その均衡を崩したのは、欲深な人間たちであった。彼らは森を征服しようと、剣や槍を手にして彼らの領域を荒らした。獣の皮膚を覆う毛皮を欲しがった。竜の目を欲しがった。その血を浴びれば不死になれるという伝説を確かめたかった。

 吟遊詩人によって語り継がれた冒険物語は多くの若者たちを魅了し、森へと向かわせた。時の国王も得られる土地と宝に興味を抱き、騎士団を設立し、討伐に当たらせた。

 瘴気を浴びない頑丈な鎧を作り、彼らの寝ている間に罠を張り巡らし、遠くから仕留められるよう猛毒を鏃に塗り、巧妙に彼らは魔物を追いつめていく。そして、とうとう最後の要とも言える竜の住処へと到達した。

『貴様たち人間のせいで、我々は滅びるのか』

 森は血で濡れ、死臭に満ちていた。彼らにとって多くの同胞が信頼していた人間によって殺されたのだ。

「お前たちの存在が我々人間の平和を脅かすのだ!」

 騎士の一人が声高らかに言い放つと、竜の目に矢を放った。それに倣うように一斉に岩場の影から矢が放たれる。耳をつんざくような咆哮。竜の腹から溢れるほどの血が噴き出した。赤黒く、火傷しそうなほど煮え滾っていた血は幾人かの人間をその場で焼き殺したけれど、竜の怒りは静まらなかった。

『許さぬ……貴様を、貴様たち人間を、我らは決して許さぬ……!』

 片方だけ残った竜の瞳がぎょろりと一人の騎士を捕えた。射殺しそうな殺気。震え出す彼に、竜は告げる。

『怒りは同じ報いによってしか、祓うことは許されない』

 そうでなければ、と巨体な身体は溶け出してゆく。同時にあの禍々しい瘴気が目に見えるほどの色をつけてゆくではないか。

『貴様たちに呪いを授けてやろう。私や仲間たちを殺した血で今度はおまえたちの国を殺してやろう』

 魔物はすべて人間たちの手によって始末された。けれどそれで終わりではなかった。彼らの死体を覆っていた瘴気は生きている時よりずっと強く、森全体を覆ったのだ。頑丈な鎧では防げない。瘴気が消える気配はない。むしろますますその範囲を広め、村の人々の息の根を次々と止め、やがて王宮にまで魔の手を伸ばそうとしていた。

 国王は頭を悩ませた。白魔導士を呼び、浄化に当たろうとしても、効果はなかった。被害は甚大だ。

「父上。私が生贄となり、魔物たちの怒りを鎮めましょう」

 若き王太子殿下が絶望する父に進言した。

「しかし、アーサー」

「同じ報いを、と討たれた竜はおっしゃいました。あの竜は魔物にとって長のようなもの。ならばこの国をやがて継いでゆく私の喪失こそが、報いに当たるのではないでしょうか」

 彼は国を愛していた。父を敬愛していた。だから長というのが父に当たると理解していても、自分の命を捧げることにした。

「ああ、アーサー。どうか、許してくれ……」

 その時彼は何を思ったのだろう。わたしにはわからない。ただ国王は息子を犠牲にする道を選んだ。お前が死ぬことは許さない、と反対することはしなかった。

 彼の死を認めなかったのは、彼の婚約者である。そう。彼を幼い頃からずっと愛していたというキャサリン嬢。彼女はアーサーが死ぬことは何としてでも避けたかった。愛していたから。だから宰相でもあった父の公爵家に協力を仰ぎ、禁忌とされる魔術書を読み漁って、術者を密かに集め出した。

 そうしてアーサーが気づいた時には、召喚の呪文を読み上げさせ、神殿の地下室へ駆け付けた時には、わたしという存在がこの世界に召喚されていたのだった。


 わたしがこの世界に現れたことで、国中の瘴気が薄くなったそうである。被害のあった村や森を連れ回されれば、もう完璧に元の状態へと戻った。特別なことは何もしていない。わたしという存在が奇跡そのものだったのだ。

「魔物はこの国にとって異物なのです。つまり簡単に述べると……本来ならばこの国に実在しないもの。どこか遠い世界の生き物。彼らが纏う瘴気は彼らにとっては酸素を吸って二酸化炭素を出すような、害のないものかもしれませんが、私たちにとっては外のもの、害あるものとして、身体が反応してしまうのです。ええ、ですからそれを弱めるために、同じく外の世界の住人である貴女様がこうして呼ばれたのでございます」

 負の要素が強い魔物、陽の要素が強いわたしで滅びかけた国のバランスを今一度正常に戻したというわけらしい。神官長の長ったらしい説明によれば、わたしもまた異物ということになるが、この国を救ったことで「聖女」という英雄的存在に持ちあげられた。

「浄化したのならば、わたしは元の世界へ戻れるんですよね?」

 わたしはこの時まだ信じていたのだ。自分が元いた場所へ帰れるのだと。だってもう人々を苦しめる瘴気は消えたのだから。

「……いいえ、聖女さま。これは呪いなのです。今は貴女さまのお陰で呪いを封じ込めているに過ぎないのです」

 あの竜は最期の力と引き換えに、この国を滅ぼす呪いをかけた。

 呪いは竜の怒りでもあった。報いを受けることでしか許しは得られない。呪いは解けない。それはつまり……

「ミレイ。呪いを完全に解く方法を他の術者たちと一緒に探す。だからそれまでどうか、この国の平和を守るために、私たちの国に留まってはくれないだろうか」

 言葉を失うわたしに、王太子であるアーサーが深く頭を下げたのだった。


 あの時、わたしが嫌だ、帰りたいと拒否すれば、彼はどうしただろう。

 答えは何も変わらなかった。

 王太子といえど、彼に決定権はなかった。彼が代わりに犠牲になる道は王が許さなかったし、わたしが帰る方法は――術を実行する術者は殺され、召還の手順が記された書物は焼き払われ、わからなくなっていた。すべて、彼の婚約者の実家、公爵家によって阻止されていた。まだ若く、経験も何もかも不足しているアーサーを欺くことは、彼らにとって実に容易いことであったのだ。

「すまない。ミレイ。私は……」

 アーサーは何度もそう私に謝った。国王や公爵家からは何の言葉もかけられなかったのに、アーサーは神殿に何度も足を運び、わたしの体調を気遣い、わたしの運命を自分たちのせいだと詫びた。

「もう、帰ることはできないんですね……」

 わたしは現実を受け止めきれず、その場に崩れ落ちて涙を流した。駆け寄ってきたアーサーが「本当にすまない」と同じ言葉を繰り返す。わたしの手を握る彼の手は、震えていた。

「私にできることなら、何でもしよう」

 彼は一人の少女の運命を狂わせてしまったことを深く悔いていた。償いを求めていた。

 誠実で他者を思いやる優しい青年。その心がわたしの寂しさと孤独を癒してくれた。わたしは彼の優しさに救われ、この国で生きていこうと前向きになれる精神を保っていた。

 まだ、この時は。


 神殿で暮らすのは何かと不自由であろうと、彼は離宮を与えてくれた。

 床は大理石で、窓から差し込む光と天井から吊るされたシャンデリアの光によって、目が眩むほどの輝きを生み出していて、高そうな花瓶に差された花は毎日生け替えられ、有名な画家が描いたという巨大な絵が壁に飾られ、大きな部屋がいくつもあって、白を基調とした猫脚家具があって、大きな寝台はとても寝心地がよさそうで……豪邸みたいな所に、わたしはたった一人で暮らしていいと言われた。

 たった一人。それは全く見知らぬ世界に連れて来られたわたしにとっては耐え難い孤独でもあった。

 世話を焼いてくれる使用人はいた。けれど彼らはわたしを仕えるべき主人として敬うよう教育されており、決して気軽に口を利いてはいけないと教え込まれていた。だから話し相手は、一日一回は必ず様子を見に来てくれる彼のみ。ほんのわずかな時間。彼も暇人ではない。王太子という身分であるのでもっと話がしたいと我儘を言うことは憚られた。

 だから同じくらいの年頃の、毎日わたしの世話を焼いてくれる少女に、友人として接して欲しいと思うようになっていくのは、自然な流れだったと思う。

『ねぇ、あなたの名前は何と言うの?』

 わたしの世界では、使用人などいなかった。いても家政婦さんぐらいなもので、それも別に世間話をしてはいけないという決まりはなかった。上と下の身分をはっきり示さなければ付け込まれるということも、全く知らなかった。

『聖女さまは良いですよね。何もしていなくても感謝されるし、アーサー殿下が会いに来てくれる。あたし、毎日あなたの世話をしていることが馬鹿らしくなってきますよ』

『ね、聖女さま。聖女さまから王太子殿下に頼んでくれませんか。いえ、王太子殿下ではなくとも構わないんです。とにかく毎日働かなくても済むような素敵な人と知り合いになりたいんです。ね、お願いします。聖女さま。あたしたち、お友達でしょう?』

 わたしは彼女のことを友人だと思っていたけれど、彼女からすればわたしはただ自分が幸せになれるかもしれない道具だった。

『彼女はやめさせられました。……聖女さま。どうか使用人と仲良くなさろうとしないで下さい。貴女は貴族と同じ……いえ、それ以上の地位におられるのですから』

 無知を晒すなと叱られ、気をつけようと思った。この国の文化を学ぼうと思った。この世界に早く馴染まなければ。認めてもらわなくては……。

『侍女をやめさせたそうね? 可哀想に……泣いていらしたわ。聖女さまって案外我儘なのね』

『キャサリン様はとっても素敵な方なんです。あなたみたいな人よりずっと。あなたがここにいられるのも、彼女と公爵家のお陰なんですよ?』

『聖女さまは――』

 微笑まないと。怒ってはだめだ。だって彼らと同じ人間になるには感情を顔に出してはいけないから。無邪気に笑ってもだめ。馬鹿みたいだと裏で嗤われる。感情を殺して、品のいい笑みを浮かべて、そうしないとわたしはこの世界で……。

「ミレイ」

 久しぶりに訪れた彼の顔を見ても、わたしは何も言葉を発する気になれなかった。話し方を忘れてしまっていた。

「どうしたんだ。一体何が……」

 彼はかつて瘴気に毒されていた森に異変がないかどうか確認するために王宮を離れていた。本来ならば彼の弟がすべきことだったが、国王が渋ったため、彼が出向くことになった。彼はもちろん残してゆくわたしのことを気にかけ、国王陛下に、彼の信頼する部下に、公爵家に、そして婚約者であるキャサリン嬢に、どうかくれぐれも頼むと伝えて旅立った。

 それなのに帰ってきたわたしの顔は能面のように表情を失っていたのだから、驚くのも無理はない。

「ミレイ。どうか教えてくれ。一体何があったんだい」

 彼の顔は今にも泣きそうだった。いっそ泣いた方が楽なのに、そうしないのは王族としてどんな時でも心を律するよう躾けられたか、あるいは自分よりわたしの方が辛いと思っているからか。

「すまない。ミレイ。本当に、すまない……」

 彼の謝罪はわたしの心にはもはや響かなかった。気にしないでと慰める気にもなれなかった。彼一人がわたしのために身を尽くした所で、わたしがこの世界で幸せになれるわけではないと知ってしまったから。


「――聖女さま。王太子殿下がお見えになられました」

 二回目からは侍女も落ち着いて、彼の訪問に対応することができた。彼が部屋へ入って来るとすでに学習済みだと、何も言わず部屋を出て行く。

「今日はずいぶん疲れた顔をしているんですね」

 前回もう来るなと伝えたのに、彼はわたしの願いを聞き入れてはくれなかった。

 そのことを問い詰めようとしたけれど、彼の顔を見て思わず違うことを言ってしまった。

「何かあったんですか」

「……ああ、少し、父と話しこんでいてね」

 国王はここ数年でずいぶんと身体が弱くなった。そろそろ息子に王位を譲ろうと考えているのだろう。とするとキャサリン嬢との結婚もいよいよ現実となる。

 いや、けれどひょっとすると――

「もしかして王位を弟君に譲りたいと相談されましたか?」

 一瞬だったけれど、彼は動揺を晒した。なぜ、とわたしを恐れるように見つめた。わたしは何だかそれに笑い出したくなる。久しく動かしていなかった表情筋がぎこちなく動いているのを感じる。

「なぜ、」

 絞り出すような声で、彼がたずねた。

「だって、国王陛下は長男であるあなたより、次男のフィリップ様を可愛がっていらっしゃるように見えるんですもの」

 よそ者のわたしが気づくくらいだから、他の家臣たちもみなとっくに気づいているはずだ。知らないのは王子様だけ。

「あの人はあなたにこうおっしゃったのではないかしら。フィリップを王として、おまえが臣下として彼を支えていけばよい」

「……どうして、」

「わかるわ。だって、そもそもおかしいじゃない。魔物の討伐に参加したのはあなたの弟だった。竜の目を抉り、呪いの言葉を聞き届けたのは、あなたの弟だった」

 そう。あの呪いの言葉は、王の死ではなく、王が愛する息子の死を意味していた。それをアーサーは読み間違えたのだ。わざと。

「あなたは自分が父に愛されていると思いたかった。自分が死んでも、父の心を抉る結果にはならないと思いたくなかった。だから報いを受けることは、王の喪失だと、父の代わりに自分が身を捧げるべきだと進言した」

 彼が死んでも、呪いは解けなかった。美しい自己犠牲はただの無駄死に。

「違う。私は本当に、」

「あなたは気づかない振りをしていただけ。他のことも、ずっと」

「他のこと?」

 何のことだと怯える彼に、わたしは口の端をちょっとだけ上げて、一つずつ、丁寧に教えてあげる。

「あなたの婚約者のキャサリン嬢。彼女を愛しているのは、自分以外にもいる。あなたをそばで支えている側近の一人、近衛騎士の一人、そして……あなたの弟であるフィリップ殿下もその一人。みんな、彼女に対して男女の愛を求めている」

「……彼女がそれだけ魅力的な女性ということだろう」

 必死で婚約者を庇おうとする彼は実に健気である。キャサリン嬢が伴侶としては彼を選ぼうとする理由もわかる気がする。

「あなたにはどんな女性も近づかせまいと画策するのに、自分は男にべたべた触られてもいいの?」

 彼女がたくさんの男性に囲まれている姿をわたしは何度も見た。二人だけで話している姿も見た。親密な様子で、時に髪に触れて、耳元で何かを囁いて……

「ねぇ、こちらの世界では未婚の女性が婚約者以外の男性と親しくしていて誤解されないの? 何か間違いが起きたりするかもしれないと、不安に思わないの?」

 思うはずだ。わたしの世界よりずっと女性の純潔は重く、深い意味を持つのだから。

「あなたの側近……たしかあなたの友人なんでしょう? あなたに遠慮しないのかしら。それとも友人よりも、愛を選んでしまった? だったら友情なんて脆い絆ね。あなたを守る近衛騎士も……主人を裏切って彼女を想う状況に酔っているんじゃないかしら」

 騎士がキャサリン嬢の手の甲に口づけしている姿を見たことがある。夜会の中庭だった。彼女も拒みはしなかった。二人が背徳感を味わっている時、アーサーは何をしていただろう。

 彼はこの国のために、一生懸命働いていたのに。

「あなたの弟も、酷いわ。原因の一端を担っているのに、兄に後始末をさせて、兄の婚約者に懸想して……ああ、でも婚約者のキャサリン嬢が、一番酷い女かもしれないわ」

 キャサリン嬢の悪口を言うわたしはさぞ醜い顔をしているだろう。あの女の嫌な部分、汚い所。わたしはずっと見てきた。

「彼女はあなたを愛しているけれど、多くの男性を虜にする自分自身も同じくらい愛しているのよ」

 アーサーを特別愛しているわけではない。彼の犠牲を止めたのも、わたしを召喚したのも、自分が王妃になる道をなんとしてでも実現したかったからだ。フィリップではなく、一途で王としても完璧なアーサーが伴侶だからこそ、そんな彼の妻だからこそ、彼女は幸せ者だと羨ましがられ、自尊心を最高に満たすことができる。

「結婚しても、きっと同じことが続くだけだよ」

 彼に処女を捧げた後は、他の男とも身体を繋げるかもしれない。そして夫には妻である自分一人を愛するよう強要するのだ。たとえ彼が側室を作っても、可哀想な自分を演じる強かさとずる賢さをあの女は持っている。

「でも、あなたは平気なんだよね? わたしにはとても耐え難いことだけれど、あなたは別に何とも思わないのよね?」

「……そうだよ。私は、何も思わない」

 わたしがここまで言っても、彼は何も言わない。諦めたようにその場に立ち尽くしている。

 笑っていたわたしはその瞬間表情を消した。

 椅子から立ち上がって、ゆっくりと彼の目の前まで来ると、彼の頬を両手で包み込んだ。

 突然の振る舞いに、彼は動揺する。

「ミレイ、なにを、」

「あなたは小さい頃から努力家だった。未来の王となるために書物をたくさん読み、厳しい剣術を教え込まれた。弱音を吐くことは許されなかった。泣いても誰も助けてくれなかった。苦しくても笑みを浮かべなくてはいけなかった。すべて王になるため。父の期待に応えたかったから。そうでしょう?」

 彼は大きく目を見開いた。なぜ知っていると、言いたげな表情。

 わかるよ。ずっと見ていたもの。

「でも、弟が生まれて、少しずつ、あなたは何かが可笑しいことに気づいていく。あんなに厳しかった父親が、笑ってくれなかった国王が、弟の前では惜しみなく微笑んで愛情を捧げている。なぜ、――あなたは自分が王になるためだからわざと厳しくしているのだと言い聞かせる。もっと努力すれば、民のために自身を捧げれば、父はきっと自分を見直してくれる。ううん。父親じゃなくても、いつか他の誰かが自分の努力をわかって、自分だけを一番に愛してくれる。そう信じて、今まで頑張ってきたのに、」

 やめてくれ、と彼は声なき悲鳴をあげていた。けれどわたしはやめなかった。

「あなたの努力は結ばれなかった。父親はやっぱり弟の方が好きで、キャサリン嬢は他の男と同列に自分を扱って、父の愛情を独り占めしている弟はあなたからまだ奪おうとして、あなたの友人は友情より女を選んで、自分を守ってくれるはずの臣下もあなたを裏切って傷つけた。……ね、わかるでしょう? あなたを見てくれる人はいない。あなたの傷に寄り添ってくれる人なんか、一人もいないのが現実なんだよ」

「やめて、くれ」

 みんなに美しい、きれいだと褒められる緑の瞳をまっすぐ見つめ、わたしは微笑んだ。

「かわいそうな人」

「っ……」

 初めて、彼がわたしを拒絶した。今まで小さな子どもに接するように優しく接していたのに、乱暴に突き飛ばした。けれど床に倒れ込んだわたしを見ると、すぐに我に返った様子で駆けつけて謝るのだから本当に、根っからの善人である。

「ミレイ。すまない、こんなことするつもりじゃ、大丈夫――」

「ねぇ、どうしてそんなに必死になれるの?」

 ぼんやりと座り込んだまま、宙を見つめてつぶやく。こんなに優しい人を周りの人間は傷つけて、搾取し続けている。

「馬鹿みたいじゃない」

 わたしには無理だよ。頑張っても誰にも認めてもらえないなら、見返りがないのならば、心が折れちゃうよ。

「……ミレイも、」

 アーサーはきれいな指先でそっとわたしの前髪を払った。視界が開けた先、彼が泣きそうな顔でわたしを見つめていた。

「かわいそうな子じゃないか」

『あんたなんか、ただお金をもらえるから仲良くしてただけよ!』

『まぁ、聖女さま。そんな高価なドレスを着て、化粧もなさって、大変努力しましたのね』

『聖女さまは美しいですよ。でも、やはり私たちとは違う方なんだと、時々思うんですよ』

 この国の常識を学んだ。慣れない礼儀作法や言葉遣いを必死に頭の中に叩き込んで、舞踏会で恥をかかないよう何度も手順を確認し、踊りを練習した。慣れないドレスは重たく、踊るたびに足が痛くて、こんなこともできないのかと使用人たちに冷めた目で見られても、我慢した。耐え続けた。

 努力して、耐えて、努力して、我慢して――完璧になった。教えてくれた人もそう言ってくれた。

 でも、やっぱり無理だった。

 わたしがどんなにこちらの世界に馴染もうと努力しても、彼らはわたしを余所者としてしか認識しなかったのだ。

 いつか、わたしを見てくれる。

 いつか、わたしを認めてくれる。

 いつか、わたしを愛してくれる。

 ……そっか。

「おんなじなんだね、わたしたち」

 彼からすればわたしも同じように映っていたんだ。

 アーサーはわたしの顔を見て、ようやく涙を零した。声を殺して泣く彼の姿は哀しくて、美しかった。彼の涙を拭って上げながら、わたしは彼に約束する。

「アーサー。わたしね、この国が滅びればいいと思っていたけれど、あなたのことは嫌いになれないから、特別に許してあげる」


『どうして許した』

 夢の中で、呪いをかけた竜が問いかける。

 わたしの心が徐々に壊れかけていく頃、竜が意識のない夢に現れ、もう諦めてしまえと何度も囁いた。

『あいつらは必ず裏切る。おまえのことを仲間などと認めない』

 同じ異物だからこそ、竜はわたしと繋がることができた。彼はまだ諦めていない。呪いは続いている。復讐を果たそうとしている。

 憎い敵に加担しようとするわたしの存在が許せないのか、邪竜はわたしを人間から違う存在へ変えようとした。喉の渇き、空腹を奪い、排泄する必要のない、数年たっても変わらぬ容姿、傷や怪我を負ってもすぐに治る身体……醜い化け物になるのとはまた別の恐怖を植え付け、生きることの苦しみをわたしに与えた。

 なぜわたしがこんな目に遭わねばならないのかと怒りがわいてきて、けれど憎み続けることもいつしか疲れてしまって、変わらぬアーサーの態度がぎりぎりわたしの理性を繋いでいた気がする。

『ミレイ』

 それは蔑ろにされていると心のどこかでわかっていながらも健気に国に尽くそうとする姿勢やわたしに変わらず優しく接してくれる態度への苛立ち。そしてたぶん、嬉しさもあったのだと思う。

『ミレイ』

 アーサーだけはわたしのことを「聖女さま」ではなく、「ミレイ」と名前で呼んでくれた。わたしが生まれた世界での、わたしという存在を示すもの。彼だけは、名前をたずねて、何度も呼んでくれた。

 彼を嫌いになれたら、もっと違う結末が待っていただろう。

『なぜだ、なぜ……』

 夢はもうすぐ終わる。


「ミレイ」

 ゆっくりと瞼を開ければアーサーが愛おしそうにわたしを見ていた。

「こんな所でうたた寝していると風邪ひくよ」

 眠るならベッドにしなさいと優しく叱ると、彼はわたしを横抱きにして寝室へと連れていく。大きな寝台の上へそっと下ろすと、「おやすみ」と額に口づけしてそのまま部屋を出て行こうとするので、腕を掴んで引き止める。

「今日はもうお仕事ないんでしょう?」

「ああ。でも、明日の会議に備えて資料でも読んでおこうかと、」

「急ぎじゃないなら、後にして一緒に寝よう?」

 お昼寝の誘いだけれど、彼は別の意味を想像したのか真っ赤になった。

「ミレイ、それは、」

「いや?」

 嫌じゃない、と彼はわたしに覆いかぶさって貪るように唇を舐めて舌を絡ませてきた。互いに息を乱して快楽に蕩けた彼の目を見つめるのはとても胸を満たしたけれど、衣服に手をかけてきたのでだめだというように彼を横へと押しやった。

「ミレイ?」

「だめ。一緒に眠るの」

 そういうことはしないと示せば、アーサーはちょっと傷ついた顔をして、恨みがましい目でじっと見てきた。

「ミレイのせいで眠れそうにない」

「眠れるよ」

 手を伸ばし、目の下をそっと撫でる。青白い隈が彼の睡眠不足を物語っていた。

「ここのところずっと働き詰めだったでしょう? 休まないと身体壊しちゃうよ」

 彼も自覚があったのか、わかったよと諦めてわたしの腰を引き寄せた。彼は眠る時いつもわたしを抱き枕代わりにする。

「……その代わり、休んだら先ほどの続きをしても構わないかな」

 休んだらね、と答えれば、彼はわかったというように嬉しそうに返事をして、やがて安らかな眠りへと落ちていった。


 アーサーはキャサリン嬢との婚約を解消した。解消と言っても、相手は駄々を捏ねたので一方的と言った方が正しいかもしれない。一筋縄ではいかなかった。けれどアーサーも今度は徹底的に反抗した。彼にとって誰かに逆らうというのは初めての経験であった。

 最終的に未婚の女性としてはあり得ない振る舞いが槍玉に挙げられ、決定打となった。それでもキャサリン嬢は諦めきれず、泣いて彼に縋ったようだけれど……「私以外にもきみを想う男性はたくさんいるようだから、そちらに慰めてもらえればいいではないか」と笑顔で突き放したそうである。

 彼は変わった。

 キャサリン嬢の実家である公爵家を僻地へ追いやり、友人を心の底から信用せず、それとなく距離を置くようになった。彼女に懸想していた近衛騎士の任も解いて、別の人間を採用した。甘やかされていた弟に厳しく接するようになり、父に忌憚ない意見を述べるようになった。

「フィリップではこの国をまとめる力はないでしょう」

 反発はあったけれど、彼は穏やかな笑みを浮かべながらすべて力でねじ伏せた。ただ優しいだけの王子様はもうおらず、周囲も次第に彼を王として認識するようになっていく。

「父上。父上も十分王としての責務を果たしました。ですがあと一つだけ、役目を残しておられます」

 誰の血も流さず、わたしの存在もなしに竜の呪いを解く方法は結局見つからなかった。アーサーは考えた末、見つける必要はないと判断した。呪いを解く術は、もうずっと前からわかっていたのだから。

 国王が病で崩御されたと国民に発表された数日後、フィリップ殿下も若くして命を落とした。兄に対する反逆か、他の誰かの恨みを買ってか。わからないけれど、新しい国王は弟の死を精神が錯乱した末の自殺として処理した。


「アーサー。今日の朝食、とても美味しかったわ」

 向かいの席に座るアーサーにそう感想を述べれば、彼は完食された皿をちらりと見て、泣きそうな表情を浮かべた。

「ミレイ。よかった……」

 二人が非業の死を遂げたおかげで呪いは解けた。わたしの身体は元の世界に居た時のような平凡なものへと戻り、もう聖女として振る舞う必要性はなかった。

 それでも彼はわたしを捨てることはしなかった。


「貴女が今までやってきたことは、間違いなくこの国を救うものだった」

「何もしていないわ」

「いいや、ミレイがいてくれたから、私は……」

 彼は変わったけれど、変わらない所もある。弱い者を思いやる心も失われてはいない。彼はわたしのおかげだと言うけれど、わたしも同じだろう。彼のおかげで、完全に心を壊さずに済んだ。

 一方で怖くもある。わたしの中で、彼はいつしか途方もなく大きな存在へと変わっていたのだから。

「貴女のことを愛している。どうか私と結婚して欲しい」

「……責任を感じているなら、」

「ミレイが好きなんだ」

 だめだろうか……と犬の耳がしゅんと垂れたように落ち込むのはずるい。

「……わたし、王妃として相応しくないわ」

「相応しいよ。街を一緒に回った時、みんなが貴女のことを歓迎していて、感謝していただろう?」

「貴族とか、そういうやり取り、怖い……」

「あれはキャサリン嬢の取り巻きだったから敵対的だったんだ。あなたの功績もいまいち伝わっていなかった。けれど今は違う。ミレイの功績を国中に伝えた。貴女に好意的な人間も必ずいる」

 確かに国王となった彼に表立って逆らう者はいないだろう。でも、王妃として相応しいかはまた別の問題だ。

 わたしは一時でも彼と気持ちが通じ合えただけで満足していた。それ以上は望んでいなかった。でも……

「ミレイ。お願いだ……」

 戻る術はもうない。わたしはこの世界で生きていかなければならない。平民として働いていくことは、わたしの想像よりずっと大変なことだろう。貴族の妻として生きていくこととどちらがましだろうか。

 結婚する場合、夫となる男はわたしのことを愛してくれるだろうか。

 無理矢理異世界に連れて来られて、帰ることもできなくなって、たくさんの孤独を味わって、もうどうでもいいやと思ったけれど、今はそれほど悲嘆には暮れていなくて、アーサーが前よりずっと明るい表情を浮かべるようになって、わたしの名前を呼んでくれるたびに、わたしの中である感情が芽生えていった。十分だと思っていた気持ちはさらに欲深くなってゆく。ああ、わたしはこんなにも彼のことを――

「……式典とか、大切な行事の時は出席するから、それ以外はずっと屋敷に閉じ籠っていていい?」

「ああ、いいよ。でも時々私と一緒に庭を散歩して欲しいな」

「……あなたが一緒なら」

「ありがとう、ミレイ」

 わたしは彼との結婚を受け入れた。惚れた弱みである。


「あの時ミレイが受け入れてくれてよかった」

 一緒に庭を散策しながら彼がしみじみと言葉にする。

「断っていたらどうするの?」

 彼はちょっと考え込み、わからないと答えた。

「離宮に閉じ込めて一生私だけを見るよう仕向けたかもしれない……」

「今とあまり変わらない気がするけれど」

 ああ、でも以前住んでいた離宮からは居を移したので、そこは違うのか。広すぎて暮らしにくかったのでもう少し小さな屋敷を建ててもらった。王宮のきらびやかな建物と比べれば浮いているかもしれないけれど、わたしは自分の故郷を思い出して落ち着いた。

 本当は料理なども自分で作って彼に食べてもらいたいけれど、そこは国王陛下という偉い人なので何かあったら大変だと、きちんとした手順で用意してもらっている。

「アーサーは……我慢していない?」

「いいや、ちっとも。私はもともと家族の愛というものに飢えていたから、ミレイとあの小さな家へ帰っていくのは何だか心がほっとする」

「そっか。ならよかった」

 安心して、彼の胸へ寄りかかる。わたしの好きだと言った香水の匂いとアーサー自身の香りがして、この人が好きだとしみじみ思う。

「ミレイ。好きだよ」

「うん。わたしも」

 ミレイ、と顔を上げさせられて雨のような口づけが落ちてくる。


 アーサーは呪いがすべて解けたと思っているけれど、それはちょっと違う。確かに邪竜の呪いは解かれた。けれど他の魔物たちの死体は、その血は土地に深く染み渡り、いつでも機会をうかがっている。自分たちを蹂躙し、理不尽な死へと追いやった国を、彼らは決して許してはいないのだ。国を滅ぼす呪いは続き、わたしの死を魔物は未だ願っている。

 彼らの呪いを解く方法は一つだけ。この国の人間が息絶えることだ。でも民が死ぬことは国の滅びでもあるから、結局呪いを解くことはできない。

 わたしが生きている限りは、平和が約束されているのでアーサーには伝えていない。彼には何の憂いなく、この国を治めて欲しいから。民にも、彼を偉大な王だと認めて欲しいから。

 彼がこの世を去ったら、わたしも一緒に後を追う。その時まで、彼にはどうか幸福な夢を見続けて欲しい。


「ミレイ。私は貴女との子どもが欲しい」

 ようやく満足したのか、口づけをやめたアーサーは幸せに満ちた表情でわたしの耳元で甘く囁いた。直球なおねだりにちょっと驚くも、わたしはすぐに微笑んで、もうしばらくは二人がいいと我儘を述べた。でも彼が望むなら、いつかは叶えてしまう気がする。

 それにわたしの血をひいた子どもたちの存在は魔物の呪いを封じる役にもなるだろう。ああ、そうだ。たとえわたしが先に死んでも、アーサーは夢を見続けることができる。

 万が一、臣下の誰かが王に相応しくないと子孫を傷つけ、殺す結果になった時――その時は、この国は終わりを告げる。国が滅びれば、魔物の恨みは晴れ、呪いは解ける。あとには何も残らない。

 呪いが解けるまで、人々の平和は約束されている。それはアーサーの願いでもあるから、できればずっと続いて欲しいけれど、人間は欲深く、間違える生き物だから、どうなるかはわからない。

 わたしはただ、彼が幸せであればそれでいい。


 おわり



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