子供たち
俺は一日おきに男の場所と外を交代で見まわった。
そして、俺のような子供だが持つ家のない連中につかまってしまった。
「お前、新顔? それにしちゃ身ぎれいだな」
その子供たちは異臭を放っていた。俺は三日に一度湯に付けられていたが、おそらく数十日ぐらい湯を使ったことがないのだろう。
「どこの孤児院から逃げてきたんだ?」
子供たちの着ているものは元は俺と違っていろんな色がついていたのだろうが薄汚れて同系色になっている感じだった。
孤児院という身寄りのない子供の住む家があるのだが、そこはとても待遇が悪いらしい。食事は飢えないギリギリで、その場所の管理人に殴るけるは日常茶飯事、それでも体面があって子供は身ぎれいにはさせてもらえるらしい。
なるほどと思いつつ俺は相手の話を聞いていた。
「戻るのか。せっかく逃げたのに」
俺は今日得た知識を明日、男に聞いてもらおうと思った。きっと男はいい話を聞かせてくれるだろう。
俺は迷うのが怖くて少しずつ道を開拓している。大通に入った後、どの通りに入れば元の道に戻れるのかわからなくなって怖くて泣きそうになった。
やっと元の建物が見えた時は物凄く安堵した。
回数をこなして大体の道順や目印になる建物を覚えた。
浮浪児というのがあの子供たちの総称だそうだ。そうした子供は食べ物を盗むか、あるいは道をさまよって小銭を拾うかして日々の糧を得ているらしい。
大人につかまれば死ぬ寸前まで殴られるか、元の孤児院という身寄りのない子供の住む家に連れ戻されるのだそうだ。
家がない方がましというほどひどい場所に戻されるくらいなら外で暮らしたほうがいい。
俺は心底ぞっとした。
いつも食べているパンとスープ、それは俺にとっては足りないが、お父様はそれ以外のものを食べたことは無いと言っていた。お父様のお父様、お爺様はいつも不平をこぼしていて、こんな粗末なものを食べなければならないなんてと食べながら文句を言っていたらしい。
それより悪いもの。俺には想像がつかなかった。だけどここから逃げたら浮浪児の仲間になっていつか孤児院という怖い場所に連れていかれるのだろうか。
俺はだからと言ってあの場所にい続けることもできないのだと、男の言っていた言葉を思い出す。
男はいつもの場所で、俺を待っていた。
「そういう時は技術があればだなあ」
そう言って首をかしげる。
「技術?」
俺は男の真似をして首をかしげた。
「要するに、物を作ったらその報酬として金がもらえる」
金、あの子供たちも道で落ちている金を拾って食べ物を得ていると言っていた。
「お前、読み書きはできるんだよな」
それはある。俺は毎日家庭教師に読み書きと計算を習っていた。
「役に立つかわからんが」
そう言って男は俺に差し出してくれたのは本だった。