見知らぬ男
俺はその男を見上げて首をかしげた。
男の言っている意味が分からなかったのだ。
男の前にある板がちかちかと光るその光に俺の意識はそれそうになる。
「お前、多分もうすぐお前の父親と同じことになるぞ」
お父様と同じ?
そう言われて思い出す。テーブルに突っ伏したお父様。見慣れない杯。あの杯はいったい何?
「毒入りだな」
俺の考えを読んだように男が言う。
「毒?」
「飲んだり食べたりすると死ぬものだ」
俺はそんなことも知らなかった。男は俺の方を見ることなく続けた。
「お前はこの先いろいろ知識がないと危ないぞ」
そう言って男は断片的な俺の知識に推測だがと前置きしていろいろと教えてくれた。
「そもそもの発端はお前のお父様のお父様とやらだと思う」
一度だけお父様が教えてくれたお父様のお父様?
「面倒くさいから、お爺様だ。お父様のお父様は普通お爺様と呼ばれる、覚えろ」
そう言われて俺は頷いた。
「まず、お爺様はたぶん犯罪者だ」
犯罪者がわからない。俺が困っているのを見かねて男は犯罪者というのがどういうものか教えてくれたが。
「犯罪者とは、社会の決まりをかなり悪質に破った人間だ」
と言われてさらに疑問がわいた。社会って何?
「社会というのは人間の集団が要領よく生きるために作った組織だ、お前のいる建物の外にはたくさんの人間がいて、そうした連中が衝突しないように決められたのが社会の決まり、法律だ」
「お爺様は法律を破ったの?」
「そうだ、やっとここまで理解してくれた」
男は深い深いため息をついた。
「お前は刑罰を受けているんだ」
「俺は法律を破ったことないよ」
「それは俺も知っている、お爺様が破った法律は結構深刻なもんだろうな、それで血縁者連座というのになっているんだ、身内も何も知らなくても罰を受ける」
「だからお父様は死んじゃったの?」
「そうだな、罰を受けなくても人間は死ぬけどな、子孫をわざわざ残させてさらに罰を加えようとする理由はわからんが」
男の言葉に俺は首をさらにかしげる。男はとても物知りだ、その男にもわからないことがあるのか。
「とにかくいきなりは無理だ、でもお前の寿命より早くその命を終わらせたくなければ俺の言うことを聞け」
男の言葉に俺は頷いた。