悲劇の国王
俺の身柄を盾にラーマ帝国はシェラトを半属国にした。
後で聞いた話だが、俺が消えたことで結構な大騒ぎになったらしい。まあいろんな泥仕合、誰がやったのかと潰しあったりそうしたごちゃごちゃした、誰が敵でだれがみ方かも判然としない混沌をついて、ラーマ帝国は攻め込んできた。
俺を旗印にして。
そのあと、貴族たちは徹底して悪者にされた。
本来即位するはずの王子を牢屋に軟禁して自分たちの都合のいいように利用しようとした。まあほぼ事実なんだが。
そして、俺は悲劇の国王として近隣諸国の有名人になってしまった。
「お前の話が、流浪劇団で演じられているそうだぞ」
俺の周りにいた貴族たちを何人もさらし首にしてきたとそんな報告をしに来た皇帝は俺にそんな話をした。
「流浪劇団って何?」
皇帝は天を仰いだ。
「なんて言ったらいいのかな、いわゆる旅をしながら芸をする連中だ。見たこと、あるわけないか」
困ったような顔で俺を見た。
「こうなれば、実際に見に行くしかあるまい」
そして翌日、俺と皇帝は灰色の服を着てこっそり、なんだか衛兵の人にお金の入った袋を渡していたけど。
しばらく歩いて開けた広場で俺と皇帝は二人で旅芸人というものを見物していた。
広場に近づく人間は大勢た。今日はお祭りというものらしい。
いろんな色のお手玉を十個投げたり、踊りを踊る女たち。
そして、何やら大仰に台詞を言っている男女。
「あれが流浪劇団だ」
皇帝が指さしたそれは、何が面白いのか俺にはさっぱりわからないけれど、大勢の人間が歓声を上げてそれを見ていた。
俺たちはしばらく芸人たちを見ていた。
皇帝が小銭を投げた。
「この小銭であいつらは食べ物を買うんだ」
見れば同じように小銭を投げている人たちがいた。
俺も同じように先ほど小遣いだともらった小銭を投げた。
みんな笑っていた。人を笑わせるのも対価が発生するのかと本日一つ勉強になった。
そして傍らの皇帝を見た。俺はこの人に殺される予定だったんだよな。
なんでこうなっているのか。はたから見れば俺たちはどう見えるんだろう。
そして、俺たちは王宮に戻り、従僕達からお説教を受けることになった。
「そうだ、お前の今後のことだがな」
唐突に皇帝は口を開いた。
「お前はシェラトに戻す。そして、また国王になれ」
俺は何を言われたのかわからずぽかんとしていた。
「俺の部下として、シェラトの地を治めること、それがお前の仕事だ」




