皇帝
俺はただ何もせず旅をしていた。俺の知らない世界は違いすぎて驚くばかり。
俺はそれを視界の端にとどめて前を見ていた。
ラーマ帝国、このあたりで一番国力のある国。書物や家庭教師の話だけではピンとこなかったその事実はシェラトの国を旅した後ラーマ帝国の国境を越えたあたりで骨身にしみた。
一つの街の建物の規模がまるで違うのだ。
俺のいた王都は一番規模の大きな街だ。だがラーマ帝国では国境近くの街ですらその王都を超える規模の街だった。
まともに喧嘩して勝てる相手じゃない。そのことを俺は実感としてかみしめている。
そして俺はラーマ帝国の帝城の前までたどり着いてしまった。
俺が外から眺めた王宮より二回りは規模のでかい建物を茫然として見ていた。
このままあちらに進むのがとんでもなく怖い。だが俺はとっさに自分の頬を自分でひっぱたいた。
俺が決めたことなんだから。たとえどれほどとんでもないことになっても俺はもうやるしかない。
城の周りには川が流れている。門が俺の前に倒れてきてそのまま橋になった。
頑丈で上に馬車が乗っても壊れそうにない分厚くて巨大な板で作られたその橋を俺は渡った。
ここにたどり着いて、俺はすぐ殺されるだろうか。
そんなことを思いながら俺は自分の首を撫でる。
この城の彩色は白と赤だった。白い壁に縁どるように真っ赤に染められた枠がはめられている。そう言えば屋根も赤かった。
俺をここまで連れてきた男たちが俺についてこいとしぐさで命じる。
俺はただ無言でそれに従うだけだ。
すでに自分の命をあきらめた俺は無言で歩き始めた。
すれ違う多分この城の使用人達だろうけれど俺の顔を見て怪訝そうな顔をする。
俺のような子供は珍しいのだろう。
そして、俺は一つの扉の前に立つ。
血のように真っ赤に染められた扉を開ければ、だだっ広い部屋の奥まった場所に真っ赤な男が座っていた。
血のように赤い宝冠をかぶり、ありとあらゆる赤い宝石を首飾りや腕飾りに指輪、はては足首飾りまで駆使して身に着けている。
着ているものも真っ赤なので、俺は目が痛くなった。
奇抜な格好をしているが顔だちは普通だった。
たぶん美しくもなければ醜くもない。
「お前が、シェラト王なのか」
足を組んでその組んだ足に肘をかけるという姿勢で俺を見下ろす。
「そうです」
俺の方が立場が低いことはわかっている。
「俺の首は差し上げます」
俺の言葉に相手はにんまりと笑う。
「本気か?」
平凡な顔というのは間違っていたろうか。唇が吊り上がるととても異様な顔に見えた。




