思い出せないお父様
俺は御婆様の伝手で何とか王宮を脱出する計画を立てた。
そしてラーマ帝国に向かう。
俺が退位と引き換えに戦争回避。それに、俺がいなくなって困るのはこの国の上層部だけだ。頭がすげ変わろうと一般市民の生活にはさして影響はない。
俺の不在は隠し通すだろうが、俺がいなくなってもこの国の運営に影響もない。所詮はお飾りの王だ。
王がいるということだけが意味がある。
俺はそんなことを考えながら御婆様の持ってきた資料に目を通していた。
男の言う通りなら、俺はいずれ始末されるはず。だとすれば早いか遅いか。
そして決行の日がやってきた。
司祭だという一団が俺を取り囲む。儀式故にいるのは俺と司祭たちだけ。
俺は服を脱ぐと司祭たちが持ってきた張りぼてに服を着せかけた。そして俺は別の服を着てずるずるした司祭の衣装の下に隠れた。
そして、俺は司祭たちについて王宮を出た。人払いはしばらくしていたので俺の不在に気付くのはもう少し経った後だろう。
俺は司祭から別の人間に引き渡された。
「大丈夫なの?」
壮年の司祭は別の司祭に合図した。
縄を持ってくる。
「我々は何者かに拘束され、衣類を奪われたのです。貴方様を連れだしたのはその何者かですよ」
嘘はよくないと宗教で言っているがそこはいいのかと突っ込みたいがあえてやらないことにした。
「それでは行きましょうか」
俺は粗末な荷車に乗せられた。俺のために藁を積んだものが用意されておりその上に座らされた。
この男たちが俺をラーマ帝国まで送ってもらう手はずになっている。
「で、お前たちはどういう身分だ」
この仕事はかなり危ないこの国で見つかったらまず間違いなく死罪になる。
「我らはラーマ帝国に仕えるもの」
ああ、なるほど、多分双方が同じことを言ったんだろうな。どちらか片方だけなら司祭たちは動かなかったんじゃないかな。
ラーマ帝国皇帝も俺に会いたいと言っていた。そして俺も。
国主は俺だもんな。
そんなことを考えながら俺は荷車の上で空を見た。
空は奇麗だ。いつ見てもどこで見ても。
「手間をかけると言いたいところだが、お前たちはお前たちの主のために働いているのだな」
「さよう」
それだけ話すと言うことは無くなってしまった。
俺はそっと目を伏せた。
どうせ死ぬなら苦しまずに死にたいもんだけど。
お父様は苦しかったのか、苦しんだのか、その時のことは俺の記憶からすっぱりと消えている。
覚えているのはテーブルに突っ伏してもう動かないお父様。盃の中身を干した姿すら俺の記憶にはない。
俺もあんな風に動かなくなるんだろうか。




