遠くの脅威
それから数回お母様の夫とその父親に会うことがあった。
お母様は俺たちが話しているとそばに寄ってこない。少しは俺は母親が恋しい子供のふりをすべきだったろうか。
俺たちは当たり障りのない話をしていたと思う。俺が即位した日あの見下ろした先にこの二人もいたらしい。
もっとも人が多すぎて個人を見分けるなどその人を知っていたとしても無理だったと思うが。
それは何回目の面会だったろう。お母様の夫は意を決した風に俺に話しかけてきた。
「陛下の立場を誰も話しておられないのですね」
俺はこくりと頷く。
「でしたらお教えします。やはり知っておいた方がいい」
何やら神妙な顔をしてお母様の夫、名前は何と言ったか聞いたことないな。
「貴方様のお祖父さまの妹御がラーマ帝国に嫁がれたのをご存じですか?」
「知ってる」
俺がそう言うと随分と驚いた顔をされた。
「ですから、その妹御の息子が現在のラーマ帝国皇帝です」
そうなんだ。
俺としてはそういうこともあるだろうなと思っていた。
「あちらは傍系ですが、王族としての血は濃い、陛下は直系ですが血の濃さではあちらに劣るのです。ですからもし陛下にもしものことがあればラーマ帝国皇帝がわが国の王になります」
それってどういうことなんだろう。
「だからラーマ帝国皇帝は俺をどうしようっていうのかな」
俺にもしものことがあれば。それって俺のことを殺したい誰かがいるってことじゃないのか、男の言っていた大臣が娘か孫を連れてくるより早く俺を殺したい奴がいるってことで。
だとすれば俺の持ち時間は俺の思っているよりだいぶ短いのではないだろうか。
どうしよう、時間がない。
子供を作るにしてももう少し育たないと無理だろうと男は言っていた。だけどラーマ帝国皇帝はそうなる前に俺を始末したいわけで。
「ですから陛下は狙われているのです。どうかご自覚ください」
そう言っていたお母様の夫。でも俺に何ができるのかな。
俺の飲むもの食べるものすべて誰かが一度食べて安全を確認している。
だから冷め切っているんだが。
俺は庭に降りることすらできない。鉄格子のある俺の部屋でしか俺は一人になれない。
どうすればいいんだろう。
「対策はあるのか」
「暗殺を避けるだけです、ですから決して危険なことをなさらないでください、陛下」
それは心からの忠告なのか。俺には判断ができない。