足りない情報
「なるほどねえ」
男はいつも通り俺に背を向けたまま呟く。
「どうやら重大な事故があったようだな」
「事故?」
「さもなければ伝染病か、お前を外に出さないのもそれに関係しているかもな」
伝染病。病気の中には体の内部から悪くなっていくものと体の外から病の素が入ってきてそれが増えて死んでしまうものと二種類ある。
病の素を増やしている人間は病の素を周りにまき散らして病を広げてしまう。
以前聞いた話だ。つまり、俺の前の王様がその病にかかりそれがうつって他の王子も死んでしまったのかもしれないと男は言った。
「お前はそういうときのためのスペアとして飼われていたんだろうな」
「そうなの?」
俺は男の様子を見る。確かに俺以外に王族と言われている人間を見た覚えはない。
「でも、王様って言ってもここの王はお飾りみたいなもんだ、そして、女をあてがわれてその女が孕んだらお前が殺される未来は変わらない」
状況は悪化しているわけだ。
「でも、今更逃げられないよね」
俺が今いる王宮はあの牢獄より警備が厳しい。俺は来たばかりでこの場所の地理なんかまったくわからないし、逃げ出せる隙間を見つけようにもこの部屋以外では俺の周りには常に人が張り付いている。
「だが、やっぱり変だな」
「何が?」
「本当にお前以外いなかったのか?」
男はそう言って腕組みをして何事か考えている。
「お前の爺さんがやらかしたことはいまだに覚えている人間がいる。まあ当時としちゃ結構なスキャンダルだったんだろうが」
また男の言っている意味が分からなくなった。最近はもう少しできるようになったと思ったのに。
「なんだか別の意図がありそうだな」
男はしばらく考え込む。
「こうなったらあれだ、お前、あの母親と婆さん、あっちと定期的に会えるように取り計らってもらえ、お前は子供だ、母親が恋しいと思わせれば何とかなる。とにかく情報が足りないんだ」
俺は男の言葉に頷く。
毎日、やることがなくただサインを入れるだけの暮らしはかなり飽きてきた。
「後、本を取り寄せろ、それに家庭教師はつかないのか?」
「これから手配するって」
「かなりバタバタとお前を連れてきたみたいだな」