御婆様
仕事と食事が終わり俺の自由時間がやってきた。
いつも通り男のいる場所に向かおうと思ったが思わぬ来客が現れ、寝室以外の何に使われるかわからない部屋に向かう。
そこはテーブル一つと椅子が何客か置いてあり、テーブルの上には花瓶に薔薇がいけてあった。
俺は椅子の中で一番大きな椅子に座り、来客たちは小さな椅子に座る。
依然やってきたお母様ともう一人、皺のよった顔をした女だ。
「御婆様ですよ」
皺のよった肌の女は灰色のなんの飾りもないドレスに頭からすっぽりとかぶり物をしている。
お母様が奇麗な青い襟元をリボンで飾ったドレスを着ているのと対照的だ。
「どうして飾りのない服を着ているのですか」
俺は一番疑問に思ったことをストレートに聞いてみた。
「私は夫を亡くした身ですので」
「お父様も死んでいるけど」
そう言って俺はお母様を見た。
お母様の顔がゆがむ。
「私の夫はあなたのお爺様ではありません。あなたの父親を産むまでのかりそめの関係です」
御婆様は吐き捨てるように言った。
「貴方のお爺様は罪を犯しました」
それは俺も薄々わかっていた。
「お父様に聞いたことがあります」
「お爺様が何の罪を犯したかご存じ?」
「誰も教えてくれませんでした」
俺は正直に言う。
「お爺様は本来この国の玉座につくはずだったのよ、そして、国のため国の利益のため隣国の王女との婚礼をするはずだった」
結婚制度のことを教えてくれたのはあの男だった。他の奴らは教えてくれない。本気で俺の無知に付け込んでこの国を好き放題したいのかもしれない。
「ところが、ある男爵令嬢に恋をして、挙句その婚約者である王女に濡れ衣を着せて排除しようとしたの、最終的にばれて、隣国との戦か王子の断罪かを選び、あの方は処分されたわ」
「その男爵令嬢が御婆様?」
「そんなはずないでしょう、その男爵令嬢ならあの方の処断のすぐあと首を吊らされたはずよ」
じゃあこの人は誰?
「そのあと、それでも高貴な王族の血を繋げないわけにはいかないと私が派遣されたの、私はある貴族の庶出の娘で、本当は尼寺に入るはずだった。あの方から離れた後、夫を迎えることを許されたのよ」
御婆様は淡々と事実だけを告げる言葉を紡いだ。
「お父様はね、毒を飲まされて死んだよ」
だから俺は事実だけを端的に告げた。御婆様は無表情を崩さなかった。