一番偉い人
大勢の大人に取り囲まれて俺は身動きすることもできずその場から連れ出された。
枕の下の小銭も取りに行く暇はなく。そして男に別れを告げることもできなかった。
あれよあれよと俺は見知らぬ白い部屋に放り込まれ、そこにいた五人ほどの男に取り押さえられ来ている服をはぎとられて丸洗いされた。
俺は身ぎれいにしているつもりだったが、あちらはそうは思わなかったらしい。
そして初めて俺は灰色以外の服を与えられた。
俺の着ているのは濃い青色。こんなに濃い色の服は俺は初めて見た。
そして袖周りについている金色の飾りは何だろうと首をひねる。
そして、適当に切っていた髪を切り整えられた。
両腕を押さえつけられながら爪を磨かれて俺は初めて口を開くことができた。
「ここはどこだ?」
俺の腕を抑えている奴が今まで聞いたこともないような抑揚のない口調で答えた。
「ここは王宮でございます。陛下」
陛下って何だと俺は聞きそうになったが、男が教えてくれた内容にあった言葉だと気が付いた。
国で一番偉い人。王に付けられる尊称。
俺はこの国で一番偉い人になったんだろうか。
どうして今日だったんだろう。
明日なら俺はあそこを逃げて、商人の下働きとして雇ってもらえたはずだ。
こいつらだって俺が逃げたその日に就職先を見つけるなんて思わないはずだからそれでごまかせる。そう思っていたのに。
俺は枕の下の小銭を思って唇をかんだ。
そして、俺は妙にでかい部屋に置き去りにされた。
窓には鉄格子がついていて、外を覗くのも一苦労だし、そして窓から出てもその下はとんでもなく高い場所にあるので落ちたらただじゃすまない。
寝台と机が置いてあるだけだが、寝台がとんでもなく大きい。俺が十人並んで寝ることもできそうだ。
そして俺は放っておかれたままだ。
そして切なく腹が鳴った。
この国で俺が一番偉いなら飯くらい持って来い。
そう思ってドアをたたいて要求したが、その返答は「まだ時間ではありません」だった。
くるくるなく腹を撫でながら俺は周囲にせめて空腹を紛らわす水でもないだろうかと探すが一切ない。
あまりの扱いに涙が出そうになった。
そして壁についている扉を開けてみたが、そこにはお丸が置いてあった。
用足しする場所がわかってよかった。
そう思って扉を閉じる。
そして俺はもう反対側の壁にありえないものを見つけた。
あの扉だ。あの丸い取っ手は間違いない。
俺は思わずその取っ手を握りしめた。
扉は開いた。




