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空中虫拳

 老若男女を問わず、道端で多くの人達が、ポカンと呆けた表情のまま、空を見上げていた。


 いや、そういった道行く人達だけではない。


 屋内にいる人達も例外なく、ベランダや自室の窓から身を乗り出すかのように、同じ方向へと視線を向けていた。


 彼らが見つめる先にいたのは――空中ジャンケンが白熱し過ぎたジャックと紀夫だった。


 両者の対決は、互いに二勝二敗しているものの完全にあいこが続いており、二人は白熱化し過ぎるあまり、闘気の力でとうとう天高くにまで飛翔することになってしまったのだ。


 その光景を双眼鏡で見つめていた青年が、茫然としながら熱に浮かされたように呟く。


「オイオイ、嘘だろ……このままだと、本当に雲の上にまで到達しちまうじゃねぇか!?」



 ――そして、そんな戯言同然の彼の呟きは、まさに現実のものとなる。



 みるみるうちに、空中ジャンケンをしていた両者の姿は、巨大な雲の中へと吸い込まれるかのように消えていく……。









「ジャンケン、ポンッ!!……いや~、まさかここまで本当にあいこが続いて、決着がつかないとは夢にも思ってなかったッスよ、紀夫さん」


 そう言いながら、流石に疲弊したらしいジャックが、額の汗をぬぐいながら近場の雲へと降り立つ。


 対する紀夫もジャンケンを中断して、ブヒブヒ息を切らしながらもジャック同様に、雲へとホイップステップで着地していた。


「グフフッ!そうは言うけど、本気で闘志を漲らせてやらせなしの空中ジャンケンをし続けないと、僕達が自然な形でここまで移動する事が出来ない、って言うのはジャック君も分かっていた事じゃないか!全く、ポレポレだぜ」


 そんな紀夫に対して、ジャックがこれまでの態度から一転して、「すいません……」と殊勝に謝罪の言葉を口にする。


「俺が頼んだこととはいえ、紀夫さんはお仕事で多忙にも関わらず、体調を健康にしてしまうような事に巻き込んでしまって、本当に申し訳なかったです。……これが終わったら、業務用のカップ焼きそばをたらふく奢るんで、それを真夜中に食って足しにしてください」


 そんなジャックの提案に対して、紀夫が目に見えて分かる演技じみたしかめっ面を浮かべながら首を振る。


「子供が変な遠慮するんじゃないよ。僕ちんはロリ系専門のエロ漫画家だが、何か創作に活かせるんじゃないかと思って、自分で勝手に今回の件に首を突っ込んだけなんだな~。それよりも君!そういうの“死亡フラグ”って言うんだぜ?知らないのかい?……DQN染みた風貌とはいえ、この際、僕の描いたロリ系エロ漫画じゃなくても良いから、そういう漫画なり他者が作った“作品”というものに君はもっと触れあうべきなんだな~!」


 多少捻くれた物言いだが、これも紀夫なりの気遣いなのだろう。


 そして対するジャックは、紀夫ほど捻くれた人間ではなかった。


 紀夫の意図を汲んだジャックは、年相応に苦笑を浮かべながら答える。


「ハァ……まぁ、善処します」


 そんなジャックの返答に、頷きながら紀夫は眼前を見据える。


「それに、確かに健康管理不行届が使えなくなるかもしれないくらいに健康的な汗をかいちゃったけど、ウォーミングアップにはこれくらいがちょうど良い。……それじゃあ、“本番”としゃれ込むんだな~!!」


 ジャックと紀夫が見つめる先。


 そこには、この一面が雲に覆われた中においてなお、意思があるかのようにモコモコと蠢くものがあった。


 それは雲の中からポンッ!とはじけ飛んだかと思うと、フヨフヨと空中に漂い始める。


 一塊と化した大きな雲の塊。


 やがて、雷を纏った車輪が四つほど出現したかと思うと、その雲の塊の周囲をまるで演奏するかのように回り始める。


 そして、その雲の中心からはニョキニョキ、と電電太鼓模様に並んだ三つのレンズらしきものが、まるで目のように出現していた。


 それらの三つのレンズが、まさに睥睨するかのようにジャックと紀夫の二人へと向けられる。


 警戒心を露わにしたジャックと紀夫だったが、彼らは雷鳴とともに厳格な声らしきものを耳にする。



『我が名は、トロッコ。この雲の領域を統べる者なり……!!』

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― 新着の感想 ―
[良い点] >二人は白熱化し過ぎるあまり、闘気の力でとうとう天高くにまで飛翔することになってしまったのだ。 ↑ 真当なバトルものなら、特に珍しくもない光景なのに、この1文が笑いのツボに刺さりました! …
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