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真冬の決闘

 ジャンケンのルールは、いたってシンプル。


 連続でなくても構わないので、先に三回ジャンケンで相手に勝利した方が勝ち……という事になった。


 それでは、と口にしながら紀夫が右手を構える。


「グフフ……!!それじゃあ、僕ちんから行くんだな~!!」


 そう告げるや否や、紀夫が右手を隠しながら颯爽とジャックのもとへと駆け出す――!!


「喰らえッ!!健康管理けんこうかんり不行届ふいきとどけ:断罪打ち切りばさみ!!」


「ッ!?」


 刹那、紀夫から勢いよく放たれたのは、二本指が織りなす上質な“チョキ”の形だった。


 ――健康管理けんこうかんり不行届ふいきとどけ


 不摂生な生活を送りがちな漫画家の中でも、特にバランスを崩し過ぎてしまい、遂には人間としての枠組みを超越した者のみが使う事の出来る禁忌の外法術。


 紀夫は普段から感じている、残酷な連載打ち切りの知らせに対する恐怖を右手の二本指に込め、相手の命を確実に刈り取るチョキの形として、ジャックに放とうとしていた。


 ――このまま直撃すれば、確実に無傷ではすまない……!!


 咄嗟ながらもそのように判断したジャックは、瞬きする間もなく自身の右手を突き出す――!!



「豆の呼吸:弐ノ型!――暗箭傷人あんせんしょうじん!」



 暗がりの中で待ち伏せしながら、獲物を路地裏で切り刻む怪人:『ジャック・ザ・リッパ―』を模したかの如き、チョキの構え。


 これにより、ジャックは紀夫の攻撃を辛うじて“あいこ”という形で迎撃することに成功した。


 この間、僅かコンマ二秒。


 だが、その僅かな間に自身の攻撃が不発に終わった事を察した紀夫が、舌打ちをしながら後方へと跳ねて、距離を取る。


 難敵である事は間違いないが――それを見逃すジャックではない。


 今度は自身の番だと言わんばかりに、すぐさま右手を構える。


「豆の呼吸:壱ノ型ッ!!――飛雪千里ひせつせんり!」


 それはさながら、雪の精霊:『ジャック・フロスト』の魂が込められたかの如き一撃。


 風を切る速度で放たれたジャックの高速のグーの拳圧が、千里先まで届く雪のように、勢いよく紀夫へと迫る――!!


「健康管理不行届!……真っ白原稿の舞!!」


 だがそれすらも、ゲームやエロコンテンツ鑑賞で仕事をさぼりまくった結果、締め切り間際にも関わらず、原稿がまっさらな状態の時の虚無な心境を表現した紀夫のパーによって、完全に防がれてしまっていた。


「……相手に僅かな猶予を与えるわけにはいかないと、畳みかけるように連撃を放ってはみたものの……対応出来るだけの距離がありすぎた事もあって、今回は完全に裏目に出てしまったようだな……!!」


 そう冷静に分析するものの、この攻防によりジャックは紀夫に勝ち星を一つ譲ることになってしまった。


 まだあと二回チャンスがあるとはいえ、遠当てによる不意打ちが防がれたという心理的カウンターの影響は、全くのゼロとは言えないだろう。


 そんなジャックに追い打ちをかけるかのように、右手を丸めた状態の紀夫が贅肉で盛大にたるんだ腹を揺らしながら、突撃を仕掛ける!!


「健康管理不行届、握り口臭・解放の儀!!」


 丸めた拳はグーのためではなく、不摂生な生活によって危険物と化した紀夫の口臭をいざという時まで温存しておくための布石であった。


 ――この局面においては、例えジャックがチョキを出してきて自分が敗北することになったとしても構わない。


 重要なのは、パーから勢いよく解放された自身の口臭によって、ジャックに嗅覚を通じた深刻なダメージを負わせ、今後のジャンケンで今以上に思考がマトモに出来なくさせるようにする事のみ――!!


 “狡猾”と言ってしまえばそれまでだが、そこには、生き馬の目を抜くようなエロ漫画業界を生き抜く紀夫のプロとしての矜持が垣間見えた。


 とはいえ、このまま行けばジャックの2連敗は確実……。


 みすみすそれを許すわけにはいかない、と言わんばかりに、ジャックは激しい気迫とともに目を見開く――!!


「豆の呼吸:参ノ型!!――星火燎原せいかりょうげん!!」


 ――それはさながら、カボチャ頭の悪霊:『ジャック・オー・ランタン』が乗り移ったかのようであった。


 一夜限りのハロウィンの馬鹿騒ぎが、一気に渋谷全域に広がっていく様を模したかのように、ジャックが勢いよく広げたパーが、紀夫の卑劣な口臭を瞬時にかき消していく――!!


 その光景を前に驚愕していた紀夫だが……今度は距離を取ることなく、ニンマリと笑みを口元に携えながら、ジャックへと語り掛ける。


「グフフ……君も僕ちんほどではないが、なかなかやるようなんだな~!……だけど、勝負はまだまだ。缶詰完徹上等な僕ちんのタフネスを前に、果たして君はどこまでついてこれるかな?」


「さてな。……ただ、俺は空気がほぼ無いっていうくらいに高いところまで登ったことがあるから、体力には自信があるぜ?」


 そのように軽口を叩きながらも、二人は闘志を漲らせて自身の拳を構える。



「「ジャンケン……」」



 あまりにも力を込め過ぎたのか、ジャックと紀夫、二人の身体がふわり、と宙へと浮かびあがっていく。


 ここに来て、ようやく異変を感じ取った周囲の人々が騒ぎ始めるが、それにも構うことなく、両者は互いの一投に全力を込める!!



「「――ポンッ!!!!」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] くぅ……っ! アツいぜ! この真冬だというのに、なんて熱量……ッ! しかもこれでまだ2話目だと……! この先、いったいどこまでいくというんだ……!(驚愕)
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