元気な子とエッチなおじさん
~~1月4日・ほのぼの公園~~
この日は、嵐の前の静けさと言わんばかりの不穏な曇り。
そんなこの場所では現在、小学校が冬休みになった頃を見計らったかのように、一人の男性が姿を現していた。
年の頃は三十代半ばだろうか。
盛大に腹部についた脂肪を揺らしながら、グフフ……!と薄気味悪い笑みを浮かべている。
彼の名前は、神風 紀夫。
知る人ぞ知る、ロリ系専門のエロ漫画を描くエロ漫画家であった。
そんな彼が、この場で一体何をしようとしているのだろうか……?
誰に聞かれるでもなく、紀夫は一人呟く。
「グフフ……!!この公園の物陰に隠れていれば、その内正月明けの冬休みを持て余して遊びに来た小学生達の、無防備な姿を拝めるかもしれないぞ~!!」
そこまで口にしてから、カッ!と目を見開き、両腕を広げながら紀夫は空を見上げる――!!
「――上手くいけば僕ちんは、無邪気にこの公園で“賊滅の刃ごっこ”とかしている小学生女子達の躍動感に満ちたリアルな姿や、ネット知識だけでは知ることのできないイマドキ♪ローティーンな私服センスをこの目に焼き付けた状態で、クオリティの高い原稿を仕上げる事が出来るッ!!……そうすれば、編集長も、もっと原稿料を分けてくださるに違いないぞ……!!」
紀夫がそのように、野心に瞳を爛々と輝かせていた――そのときだった。
「オッサン、オッサン。こんな皆が利用する公園で、一人ぶつくさとロクでもない事を叫ぶのを辞めてもらって良いですかね?」
突如自身の背後から聞こえてきた、予期せぬ問いかけ。
紀夫はそれまでの昂揚した様子から一転、睨むような表情を顔に張り付けながら振り返る――!!
紀夫が見つめる先にいたのは、一人の少年だった。
年の頃は14歳、くらいだろうか。
まだ生意気盛りといった表情ながらも、そういった要素が一切マイナスには働かない整った顔立ちが特徴的であった。
コスプレを思わせるような、金ピカゴテゴテの装飾品をつけまくり、桜色をふんだんに随所にあしらえた奇抜な衣装を身に纏っており、素材も上質そうなあたり、少年ながらに裕福な経済状況で普段から生活しているようだ。
そして、特筆すべきはそのような服に着られるのではなく、子供でありながらそこはかとなく感じられる王者の風格。
そんな相手に気圧されまいと、紀夫が叫ぶように少年へと問いかける――!!
「貴様……一体、何奴ッ!?」
紀夫の問いかけに対して、その人物が高らかに答えを返す。
「冷奴、ってな。――俺の名は、ジャック。とりあえず今は通りすがりの“元気な子”とでも覚えといてくれ」
「何~~~!?元気な子だと!!……そんな通りすがりの小僧が、崇高な活動に励もうとする僕ちんを前に、一体何の用なんだ!!」
凄い剣幕でジャックを怒鳴りつける紀夫。
だが、それに対しても全く動じることなくジャックは余裕の笑みを浮かべて返答する。
「どうもこうも……ここいらでアンタみたいな人が不審な事してると、それだけで俺みたいな戸籍のない外国人の未成年までご近所さんから白い目で見られるようになるからな。――だから、下手に騒ぎになる前に、ちょっとばかり釘を刺しに来たってだけさ」
そんなジャックの答えが当然の如く気に食わなかったのか、「ぐぬぬ……!!」と顔を真っ赤にしながら盛大に叫び出す。
「ふざけるなっ!!僕ちんは、ロリ系だけじゃなくて、幼馴染のNTR系もイケるけど、男の娘やらショタ属性は皆無なんだ!!……分からせたいメスガキ以外のロリ少女はノータッチが信条の僕ちんだが、お前みたいな生意気なクソガキには、容赦なくグーパンを喰らわせてやるんだな~!!」
そう言うや否や、自身の両拳をカチ合わせながら「36歳!!」と何故か自身の年齢を叫び、ジャック少年へと瞬時に詰め寄る紀夫。
彼の突然の行動を前に、ここに来て初めて困惑の表情を浮かべたジャックだったが、すぐに気を引き締めて紀夫へと対峙する。
「――良いぜ。ただ、本当にそのまま拳で殴り合うだけ……って言うのは、いささか品が欠ける。だからどうせ拳を使うなら、ここはスマートに“コレ”で勝負しないか?」
そう言いながらジャックは、自身の右拳を丸めた状態でグイッ、と紀夫の前に突き出す。
それが殴り掛かるのとは違う、明らかに何の速度も力も敵意も込められていない本当に突き出されただけの形であったため、今度は紀夫が困惑することになった。
そんな相手の顔を楽しそうに見ながら、ジャックが無邪気な笑みとともに勝負方法を提案する。
「俺が提案するのは、野蛮さを超越した知的な決闘方法――つまり、“ジャンケン”って奴だ……!!」
――新年早々の市民の憩いの場所:ほのぼの公園。
今ここに、“元気な子”:ジャックと“エッチなおじさん”:神風 紀夫の両者による空前絶後の『ジャンケン勝負』の幕が開こうとしていた――。